2004年4月1日木曜日

27 時間旅行者(2004年4月1日)

 私は、最近、GISというものをかじっています。GISというのは、Geograhic Information Systemsの頭文字をとったもので、地理情報システムと訳されています。私は、まだ入り口付近で、うろうろしていますが。

 私がGISをかじろうとしているのは、GPSがそもそものきっかけでした。またまた、アルファベットですが、GPSとは、Global Positonig Systemというもので、カーナビに使われている位置を知るためのシステムと同じものです。人工衛星の電波をキャッチして、位置を正確に求める装置です。この装置を、私は、昨年の夏から地質調査に導入しました。
 ポケットに入るほどの小さな装置で、誤差15mほどの精度で位置を求めることができます。緯度、経度、標高などの位置情報を、GPS装置が作動中は連続的に記録していくことができます。つまり、自分がもって移動すれば、歩いたルートや車で走ったルート、飛行機で飛んだルートなどに沿って、ある時間間隔で位置情報が自動的に記録できるものです。このGPS装置のデータを、パソコンに送り読み取ることができます。
 もちろん欠点もいろいろあります。人工衛星のデータを取り込むのですから、空が見通せるところでないと作動しません。屋内、森の中など空の見通しのわるいところでは、人工衛星を捕捉することができずGPSは位置情報を正確に求めることができません。また、位置の精度が15m程度ですから、それより詳細な精度を要求する調査では利用できません。GPSは電源が必要です。私の使っているGPSは、単三電池2本で3日ほど作動します。ですから、3日以上連続して電池がなくなると記憶ができません。まあこれは予備の電池を持てば解決できますが、問題は、1台のGPSに記憶できる情報には、容量の限界があります。ですから、パソコンでそのデータを取り込む環境がないと長期の調査には利用できません。したがって、電気の供給ができないような地域では、発電機やパソコンなど大量の設備が必要となります。とても個人では、利用できません。
 でも、日本のように電気がどこでも自由に利用できる地域では、大いに重宝します。なんといっても、位置情報をデジタルで自動的に記憶しておけるので、非常に便利です。そして、そのデジタルデータをパソコンに取り込めれば、手間をかけずに、位置情報をパソコンで利用できるようになります。
 パソコンでは、GPSの位置情報を有効に使うために、地図をデジタル化した数値地図というものを利用します。この数値地図には標高データを加えることもできます。このような仕組みを統一的におこなっているのがGISというものです。私は、まだ、GISを扱うソフトは使っていません。数値地図とGPSのデータを扱えるソフトを使用しています。
 数値地図とGPSデータを一緒に表示すれば、デジタル化された位置情報が地図と一緒に扱い、表現することもできます。これは、私とっては画期的なことでした。まさに目からうろこが落ちた思いでした。
 今まで私は地質調査というと、アナログ地図を必要に応じて、使いやすい縮尺のものを用意し、その地図にどこを調査したか、どこで試料を採集したのかなどを手作業で記入していました。限りなくアナログ的な作業でした。
 そして、位置のデータを地図から読んで、数値化するときには、読み取り誤差ならまだいいのですが、読み取りミス、入力ミスをすることが起こります。このようなミスは、致命的でした。調査した人ならは、そのミスを修正することは、かつての調査資料や記憶を頼りに、何とか修正可能ですが、一人歩きしたデータは、もはや修正することはできません。破棄するしかありません。いずれにしても、人の手作業で大量の情報を処理するときには、ミスが起こりえます。これは、どうしようもないことです。
 私自身そんなことをいろいろ試行錯誤しているうちに、数値地図とGPSに出会いました。これらを用いることによって、今までの苦労から嘘のように開放されたのです。その使用した方法や考え方を論文に書いて、その効用を地質学者に知らせました。
 さらに余禄というには大きく過ぎる利益もありました。手作業によるミスからの開放だけでなく、ルートマップや位置のデジタル保存や、断面図をパソコンで作画したり、位置データの地図上で可視化もできます。また、共通のファイル形式で保存すれば、他のソフトでデータベースとして利用できます。そして、パソコンの得意とする複雑な計算や表示、修正や更新など自由に、たちどころにできます。
 GPSと数値地図は、位置(緯度と経度)の2次元情報だけでなく、標高データも持っているといいました。ですから、地形の3次元描写も可能となります。空から見たような図、いわゆる鳥瞰図を簡単に作成することができます。また、3次元描写の位置、つまり視点を少しずつずらしながら、作画していき、連続的に見せれば、それは動画となります。まるで、鳥が空を飛びならが地上を見ているような動画を、仮想ですがコンピュータ内で生み出すことができます。鳥の目だけでなく、飛行機や人工衛星からみたものも、同じ原理で作り出すことができます。
 さて、今までGPSのすごさと、地質学者の手作業の不便さを述べてきましたが、じつは、そんな手作業にも実は重要な側面があるのではないかと考え始めました。地質学者は、地質調査から地質図を手作業で作りながら、もっと高度のことをやってのけているのではないかと思い至ったのです。
 地質調査で、ある地点を調べたとしましょう。そこには、特徴のある火山灰層があったとしましょう。その調査位置は、地図の上では、点にしかなりません。しかし注意深くその火山灰の層を調べて、どのような広がりを持っているかは、地層面の面情報を詳しく読み取ることで、連続性を予測することができます。このような地層の面情報は、地質学では、走行と傾斜という測定値で示すことにしています。
 地質調査を、ルートにそって続けていくと、それは曲線として、2次元の線情報となっていきます。先ほどの火山灰が、一つ尾根を越えたところにあると予想でき、そしてその予測を現地調査で確認することができれば、他の地層も同様に広がっていることがさらに予測できます。ルート調査を周辺に広げていくと、調査していないところも、連続的に地層が続いているということを、火山灰のような証拠から正確に予測できるようになります。
 このような地層の連続性を精密に調べるために、地質図学という数学的根拠に基づく図学的手法を使うことによって、線的な情報を2次元でも面情報へと広げることができます。これは、完全な2次元情報として意味をもってきます。このようにして地質図はつくられていきます。
 地質図は、地層の面的な広がりだけでなく、3次元的な情報として読みとっています。ですから、地質図とは地表面だけの情報だけでなく、3次元的な表現も可能です。つまり、地下を考慮した断面図も作成することが可能です。ただし、あまり深くまでは、地層の連続性が保障されませんので、ある程度の深さまでしか断面は描かれません。
 ここまでなら、地質図も3次元表現をしているということで、話は終わってしまいます。パソコンにも当然できることです。ところが、地層には、時間も情報として持っています。地層からは、いつできたのかという情報を化石や年代測定から得ることができます。そして、その時間軸にそって時間を巻き戻したり、できた順に地層を付け加えていったりして、その地域の地質学的な歴史を知ることができます。このように考えていくと、地質調査とは、4次元世界を再現する作業だといえます。
 ただし、これを図示できるかどうかは、研究者の描写能力も必要です。また、連続的に時間経過を動画として表現することは難しいものです。文章でしか再現できないこともあります。その良し悪しは、科学とは違う個人の表現能力という別の問題となっていきます。あるいは、描写能力の不得手の研究者は、淡々とした論文を書いていきます。しかし、彼の頭の中では、すばらしい過去の情景が展開されているかもしれません。
 地質学者は、そんな他の人には見ることをできない時間旅行のようなことを楽しんでいるのです。もしかすると地質学者とは、科学という舞台で、時間旅行をするのが好きな旅人なのかもしれません。こんな楽しみは、コンピュータでは、今のところ味わえないものです。

Letter
・節目の季節・
 多くの組織では、4月は変わり目です。4月1日を境目にして、組織を離れる人、新しく加わる人、いろいろなドラマがあります。組織自体は変わらないとしても、構成員の入れ替わりがおきると、もともといた組織構成員も、やり気持ちが変わってきます。
 我が家でも、この節目に、長男が幼稚園を卒園して小学校に入学し、次男が幼稚園に入園します。私が属する組織では、自身の身分に変化はありませんが、大学とは学生が出入りするところですから、否応なく年度の変わり目を感じさせます。そんな変わり目の季節を、人それぞれに感じているのでしょう。
 こんな変わり目を、自分自身の目標達成のために、一つの区切りに利用することもは、誰でもしていることでしょう。意識しないでおこなっているかもしれません。新しく来た人にはこんなことをしてみよう。この1年は何をしようか。何ヶ年計画の何年目だから、どこまで進もう、新しい年度からはこんな取り組み方をしてみようなどということを考えていることでしょう。
 そんなことを、この3月末に、エッセイを書きながら考えていました。