2007年9月1日土曜日

68 知の集積:デジタル図書館(2007.09.01)

 古今東西の書籍、雑誌が、いつもで手軽に自由に閲覧できたらいいなと、だれもが思います。それは、まさに人類の知を、手に入れたと同じことになります。ただそこには著作権、営利、費用など、非常に人間的な配慮が必要な問題も横たわっています。今回は、デジタル図書館について考えてみます。

 ある研究者が、何か新しいことを思いついて、そのことについて詳しく調べたり実験をしたりしたとします。その結果、何らかの新しいことがわかったとしましょう。それを成果として公表しようとするのが、研究者としての重要な責務です。
 ただし、成果を公表するときには、いくつか注意すべきことがあります。その成果が、はたしてオリジナリティがあるのかどうか、他人の優先権を犯していないかなどを、よく調べておく必要があります。
 そのために研究者は、先行研究としてどのようなものがあるのか、自分の成果のどのような点が独創的で新しい成果なのかなどを明確にして示す必要があります。まずは、先行研究を十分調べる必要があります。
 先行研究を調べる時、図書館での調べものが重要になります。論文や書籍を実際に当たって、自分の研究に関連する情報を可能な限り集めていきます。そして、誰もそのような成果を出したことがない時、はじめてオリジナリティが生まれ、自分の優先権を示すことができます。
 実際に先行研究を調べることは、非常に労力が必要になります。時には、研究や実験以上に手間がかかることもあります。特に自分にとって新しい分野での研究を始めるときは、その手間は大変となります。
 文献を読む大変さはさておき、文献を手にすること自体に、私は非常に苦労した経験が何度かあります。まずはある重要な先行研究の論文をいくつか読みます。それらの論文に引用されている文献には、非常に重要そうなものが、たいていいくつかはあります。それは、次なる必読文献となります。そのような文献が、自分の属する大学の図書館ですべてそろえることができればいいのですが、どんな大きな大学の図書館でも、すべての文献をそろえるのは不可能です。
 ですから、どこか他の大学図書館が所蔵する文献で調べる必要が出てきます。。近くの図書館なら行けばいいのですが、同じ国内でも、遠くなら入手するのは大変になります。現在では、大学図書館同士の文献の借用、複写サービスがあり、時間はかかりますが、現地に行くことなく論文を手にすることができます。また、文献の豊富な他の大学の図書館で、閲覧するための紹介状も所属大学の図書館は発行してくれます。
 そのような便宜があったとしても、すぐにはそろえられない文献もあります。直接著者に別刷り請求をしたりできればいいのですが、古いものであれば、それを所蔵している図書館に行くしかありません。文献が古ければ古いほど、所蔵図書館は限定されます。優先権は非常に重要な問題ですから、研究の種類によっては、そこまでの努力をしなければならないこともあります。
 もし、世界中の図書館のもっている大量の文献が、デジタル化され、インターネットを通じて、どこからでも、いつでも、いくらでも閲覧することができれば、こんな素晴らしいことはありません。
 このような閲覧システムができたら、今回例にした個人の研究の優先権の確認のためだけでなく、人類の知を、すべての人類が共有できることになるわけです。
 少し前ですが、2007年7月6日、慶應義塾は、Googleが世界規模で展開している「Googleブック検索図書館プロジェクト」と連携するというニュースが報道されました。
 どういう意味があるのかという、慶應義塾図書館がもっている蔵書のうち、著作権保護期間がきれた約12万冊を、デジタル化して、Googleブック検索を通じて、世界に公開するということです。明治初期までの和装本と、明治・大正・昭和前期の図書が、デジタル化の対象となります。その中には、慶應義塾の創始者である福澤諭吉の数々の著書も含まれます。
 「Googleブック検索図書館プロジェクト」とは、Googleが資金と技術、公開の場を提供して勧めているもので、図書情報の集積とデジタル化です。このプロジェクトには、ドイツのバーバリアン州図書館、ハーバード大学、カタロニア国立図書館、ニューヨーク図書館、オックスフォード大学、スタンフォード大学、カリフォルニア大学、マドリード・コンプルテンセ大学、米国の12大学で構成するコンソーシアムであるCommittee on Institutional Cooperation(CIC)、ローザンヌ大学図書館、ミシガン大学、テキサス大学、ヴァージニア大学、ウィスコンシン大学、コーネル大学など、25の機関の図書館が参加しています。今回、日本で最初に慶應義塾図書館がそのプロジェクトに参加したということです。
 Googleブック検索に登録されている書籍は、著作権があるものは、図書カードのような書籍の情報が登録されます。さらに、版権を持つ出版社が提供する書籍の抜粋や数ページを閲覧可能にして、書籍販売を促進をすることも目的となっています。入力された検索語を含む文章の一部を示され、ユーザーが購入するときの参考とできます。著作権保護期間が終わっているものは、全文を見ることができます。
 古い本を大量に保管していのは、古くから続いている図書館です。本を傷めずにスキャンするには、特別装置が必要で、手間も資金も必要です。それをGoogleが提供しているのです。
 日本の文献も、慶應義塾図書館がもっている明治以降だけでなく、もっと古い文献や図書も、デジタル化してもらいたいものです。古い古典に属する文献は、他のプロジェクトで行われています。しかし、データが一元化されていることが望ましいです。
 しかし、データの一元化は、どのような組織がおこなうかは、大きな問題です。現在Googleという民間企業が大規模におこなっています。Googleは御存知のように、インターネットの検索エンジンで急成長した企業です。Googleでは、さまざま新しい試みも行っています。その多くは、ユーザーからは料金をとることなく、企業からの広告収入で利益を出している企業です。
 Googleは世界的な企業で、サーバも安全のために、いたるところに分散して、多重にバックアップもされています。多分、世界でもっとも大きなサーバとデータを保持しているのではないでしょうか。そこに、図書館の書籍情報が加わることは、世界中のユーザーにとって非常にありがたいことです。
 このような大規模な事業は、Googleだからできることなのかもしれません。データベースの構築だけでなく、サーバの維持管理にも膨大な手間と費用、ノーハウが必要になるはずです。いまのところ、このようなことを、採算を考えずにできるのは、Google以外にはないのでしょう。
 どんなに大規模なサーバをもっていたとしても、世界中に関連会社があるとしても、Googleは一企業です。経営が成り立たなくなれば、このような文化的な事業は、終わってしまうかもしれません。倒産すればデジタルデータなど一瞬で消えてしまいます。
 かといって、一国の公官庁に、このよう大規模な国際的なプロジェクトを行うことは、荷が重いはずです。そして何ヶ国にも及ぶデータを、一元管理することは、なかなか困難でしょう。
 以上のような現状を考えると、Googleが進めるのはいいことでしょう。継続性を考えると、それでいいのかという不安もがあります。それがジレンマでもあります。とりえずは、Googleブック検索図書館プロジェクトが進行していくのを見守っていきましょうか。

・ブック検索・
Googleブック検索は
http://books.google.co.jp/
にあります。
しかし、残念ながら、全文閲覧ができるものは、
日本語では、なかなかひっかかりません。
まあ、これから時間が立てば、いろいろ増えてくるでしょうが、
著作権切れの読みものは、青空文庫のほうが、
充実しているかもしれません。
海外の文献は、古いものがたくさん全文閲覧できます。
ダーウィンやニュートンの文献も、見ることができます。
もちろん、このような古典と呼ばれる文献は、
新しい印刷物で読むことができます。
しかし原本を見るというのも時には必要です。
また楽しいものであります。
そのような原本は、古くからある図書館で保管されています。
文献が貴重になればなるほど、一般の閲覧は制限されます。
でも、デジタルであれば、一度記録すれば、
閲覧で痛むことも劣化することもありませんから、
自由にだれでもみることができます。
そのような意味で、Googleのプロジェクトは、非常に楽しみでもあります。

・アナログ情報・
海外の地質調査を見に行くと、いつも思うのですが、
デジタル化進んだ現代でも、
やはりアナログの情報も多いということです。
そんな地域の地質に関するアナログ情報は、
地元の博物館などの関連施設には、情報がたくさんあります。
その情報は、現地でしか手に入らないものです。
ですから、ある地域での調査は、
現地の野外調査をするだけでなく、
文献や資料の収集も同時にすることになります。
それは大変でもありますが、
知的好奇心を湧きおこすことでもあります。