2009年9月1日火曜日

92 身近な不思議:カプレカ数

 身の回りには、不思議なことが、いっぱいあります。そのいくつかは、すでに解明されています。しかし、私たちは、まだまだ知らないことがいっぱいあります。もちろん、科学が進んだ現代ですから、最先端の分野は、深い専門知識がないと、理解できないものも、たくさんあります。でも、それだけではありません。もっと、身近な不思議があります。そんなことを、カプレカ数が教えてくれました。

 世の中のたいていのことは、専門家が調べつくしていて、なにもかもわかっているように思っています。ですから、大抵の疑問や不思議は、誰かがすでに調べていたり、とっくに分かっていると思い込んでしまいます。でも、それは誤解です。私たちが知っていることは、ほんの少しで、まだまだ分からないことが一杯あることを知っているべきです。
 数には、いろいろ面白い性質があります。最近知った面白い数があります。その数には、不思議な性質があります。たとえば、6174です。6174だけでなく、3桁や、4桁以上の数にも、同じ性質を持ったものがたくさん見つかっています。
 どんな性質があるか、紹介しましょう。一番簡単な例として、3桁の数字を挙げましょう。どんな数でもいいので、3桁の数を選びます。例えば、857という数字にしましょう。
 857を、8、5、7に分けて、3つの数を一番大きなものから順に小さなものへと並べ替えます。875になります。今度は、857を小さいものから順に大きなものへと並べ替えると、578になります。つくられた大きな数から小さな数を引きます。すると、
  875-578=297
となります。
 得られた結果の297に対して、同じ操作をします。297を大きな数にしたものは972、小さな数にしたものは279です。
  972-279=693
 今度も、693に対して、同じ操作をします。このような操作を繰り返していくと不思議なことが起こります。やってみましょう。
  963-369=594
  954-459=495
  954-459=495
わかりましたか。例からわかるように、一度495がでたら、何度同じ操作をしても、495になります。
 別の数を例にしてみましょう。102としましょう。もし、数の中に0ができてたときは、小さい数は、012として計算を続けていきます。
  210-012=198
  981-189=792
  972-279=693
  963-369=594
  954-459=495
 しつこいようですが、もう一つ例を出します。555としましょう。
  555-555=0
  000-000=0
となります。3桁の数で、495以外に0も同じ操作で出てくる数です。これは、111や111の倍数(222、333、444など)を選んだ場合は、0になってしまいます。まあ、0になる場合は、例外としていいでしょう。こんな数の性質を知っていましたか。私は知りませんでした。
 まだ、納得できない人は、他の数で試してください。同じことになることがわかるはずです。
 上で述べたように、このような性質を持った数は、3桁の数だけでなく、4桁では6174になり、5桁では549945になります。以下、631764、63317664、97508421、554999445、864197532、6333176664、9753086421、9975084201、86431976532、555499994445、633331766664、975330866421、997530864201、999750842001、8643319766532、63333317666664・・・と見つかっています。見つけるのは簡単です。好きな数で、この操作を繰り返せば、その数はすぐにでてきます。
 このような数を、カプレカ数(Kaprekar Number)と呼びます。
 1949年、インドの数学者カプレカ(Shri Dattathreya Ramachandra Kaprekar、1905-1986)によって発見されたもので、彼の名前をとって、カプレカ数と呼ばれるようになりました。
 1949年の論文「もうひとつのソリティア」("Another Solitaire Game")や1955年の論文「6174の不思議な性質」("An Interesting Property of the Number 6174")では、4桁の6174を発見していました。カプレカは4桁の6174だけを発見しましたが、今では、コンピュータを使って多くの桁まで求められています。論文タイトルからもわかりますが、彼は、ゲームの中から、魔法陣や循環小数などで面白い数の性質を見つけ出していました。
 身の回りにある、当たり前に存在する数の中に、このような不思議で、誰もが驚くような性質が隠れていたのです。それが、ほんの50年ほど前に発見されているという事実に注目すべきです。数学のような、多くの研究者が、調べつくしているような自然数や整数に中に、不思議な性質をもった数が埋もれていたのです。多分、他にもいっぱいこのようなものがあるはずです。
 カプレカ数は数字という抽象性が強い数学の分野での発見でしたが、いろいろな分野、さまざまな対象でも未知の不思議があるはずです。
 たとえば、複雑さの中の単純さとして、1963年に気象学者のエドワード・ローレンツ(Edward N. Lorenz)が見つけたカオスがあります。ローレンツの発見がきっかけとして、複雑系は、宇宙、天体や気象などの物理学が扱う自然現象だけでなく、経済や社会にも、複雑系が関与していると考えられるようになってきました。今では、学際的で広大な学問分野となっています。
 複雑すぎて理解できないような現象の中にも、ある不思議な性質があったのです。複雑さにも規則性があることがわかってきました。それが、ほんの50年ほどの間に一気に発展した分野です。
 大地の営みとしてプレート・テクトニクスが証明されてきたのは、1950年代1960年代になってからです。また、プレート・テクトニクスをその中に取り込んで、プルーム・テクトニクスが唱えられたのは1990年代です。地球の営みにも規則性や原理があったのです。ただし、自然現象ですから、数学のようにはっきりと数字で示せないこともありますが、地震波トモグラフィなどの技術で、だれでもプルームというものが、見えるようになりました。
 火山の噴火の予知は以前と比べると非常に精度があがってきました。しかし、地震の予知はまだまだです。やはり、そのメカニズム複雑だからでしょう。
 身の回りの現象や、自然の中にも、規則性が見つかり続けています。でも、もっともっと不思議なことが隠れているはずです。私たちは、きっとそれを見つけていくでしょう。自然は、私たちに隠し立てをしているわけではありません。私たちが自然の中の規則性を見つける力、読みとる力、認識する力が足りないだけなのです。
 人類は2000年以上にわたって読み取る努力をしてきました。でもまだまだです。自然はもっと奥深いものです。
 カプレカ数は、私にそんな思いを起こさせてくれました。もしかすると、その不思議を発見をするのは、あなたかもしれません。ただし、不思議を感じる心は、いつも開けておかなければなりませんが。

・もう一つの定義・
カプレカ数には、もう一つの定義があります。
整数を2乗し、前と後ろの部分に分けて和を取ったとき、
元の値に等しくなる数のことです。
たとえば、279の2乗は88209で、
前の88と後ろの209に分けて足すと、
88+209=297
となります。
このような297は、カプレカ数といいます。
今回のエッセイで取り上げたのとは、全く違った定義です。
この定義にある数は、
1桁の数では、1、9、2桁では、45、55、99、
3桁では、297、703、999と、各桁で複数個あります。
小学生でも、体験でき、理解できる不思議さが
まだまだ隠されています。

・宮崎調査・
いよいよ9月です。
学校もはじまり、秋めいてきました。
北海道は8月下旬から秋のような涼しさが
朝夕始まっていました。
私は、9月4日から1週間、
宮崎に調査に出かけます。
北海道が涼しいので、
九州が暑かったらバテてしまいそうで、
少々心配です。
まあでも、野外調査は、肉体的には大変ですが、
精神的には、リフレッシュします。
その内容は、別の機会に紹介しましょう。