2024年5月1日水曜日

268 時間のらせんとアブダクティブ斉一説

  自然界に流れている時間には、循環している「時間の環」と、不可逆な流れとなる「時間の矢」があるように見えます。地質現象を考えていくには、両者が融合した「時間のらせん」という見方が必要になります。


 1987年(日本語版は1990年発行)のグールドの「時間の矢・時間の環:地質学的時間をめぐる神話と隠喩」という著書があります。グールドは本書で、地質学の基礎を築いたトマス・バーネット(Thomas Burnet 1635? - 1715)の「Telluris Theoria Sacra, or Sacred Theory of the Earth」(1680-1690)(地球に関する神聖なる理論ー原始地球および、すでに起こりし、ないしは万物の終焉までに起こるべき全般的変化に関する解説)、ジェイムズ・ハットン「地球の理論」(1795)、チャールズ・ライエル「地質学原理」(1830 - 1833)の著書を取り上げ、地質学の先駆者たちが、地球に流れている時間をどのように考えていたのかを、深く読み解きました。
 バーネットは「時間の矢」と「時間の環」の融合を目指していたこと、ハットンは斉一説を提唱し「時間の循環」を演繹的な仮説としたこと、またライエルは「時間の環」の歴史的概念を示したと考えました。
 グールドのいう「時間の矢」とは、「歴史とは、反復しない事象の一方向の連鎖である」とし、「時間の環」とは「見かけ上の運動は反復する環の一部であり、さまざまな過去が、未来で再び現実のものとして繰り返される。そこでは、時間は方向性をもたない」としました。
 では、現在の地質学では、時間をどのように扱っているのでしょうか。
 地質学は、過去の事象が対象となるため、時間は不可逆なものとして捉えていくことになります。これは地質学だけでなく自然科学すべてにおいて同じように扱っていくでしょう。そこでは「時間の矢」という考えが用いられることになります。
 ところが、地質学には、斉一説という考えがあります。斉一説とは、現在起こっている自然現象に関する因果関係、あるいは法則は、時間に束縛されることになく、どの時代でも適用可能であるという考え方です。
 例えば、水は、地球の表層では、100℃で沸騰し、0℃で凍ります。条件同じならは、どの時代でも同じ現象が起こることになります。寒ければ氷ができ、暖かければ氷は融け、水蒸気ができ、雲が生まれ雨が降ります。これは、どの時代でも、斉一的に起こる現象です。
 現実の地質現象には、繰り返される「時間の環」ようみ見える現象が多々あります。例えば、氷河期が繰り返し起こっています。そこには上の斉一説で考えれば、地球表層温度が冷え込む時期と暖かくなり時期が、繰り返されていることになります。また、地層には、似た岩相が何度も繰り返されています。これは、似た堆積条件が継続して起こり、堆積場に土砂を運んできたことになります。どこかで明らかにされた法則や因果関係が、斉一説として、どの時代でも使えることになります。非常に便利な考え方です。
 このように繰り返される地質現象には、「時間の環」が存在しているように見えます。その背景には斉一説の存在が考えられます。例えば、繰り返す地層があるのなら、地球が形成された頃まで遡っても適用できそうです。氷河期の繰り返しは、気象変化があれば、どの時代にも条件さえ整えは起こることになります。
 では、繰り返される地質現象には「時間の矢」はないのでしょうか。地球、あるいは自然界には、不可逆な時間が流れています。それは、「エントロピー増大の法則」という考えで説明できます。エントロピーは「乱雑さ」と説明されることがあります。自然現象ではなんらかの変化が起こることになるので、熱力学的にはエネルギーが消費され、エントロピーが増加していきます。自然現象では、時間の経過とともに、量は異なりますがエントロピーは増加する方向にしか動きません。そのため、エントロピーの増加によって、時間の流れに対して自然現象は一方向にしか進まないことになります。これは、時間の不可逆性を意味します。
 したがって「時間の環」に見える現象にも、「時間の矢」が隠れているはずです。不可逆な時間において、繰り返される現象(例えば、地層や氷河期)に見えても、それぞれに違いがあり、そこには時間経過に伴う変化が隠れていることになります。それが見抜けるかどうかは不明ですが、現象を詳しく見ていくことで、経年変化を見分ける必要があります。そこに「時間の矢」が潜んでいるはずです。
 このような時間は、「時間の環」と「時間の矢」が組み合わさった「時間のらせん」となっているようです。繰り返される地層もある時に終わっていきます。終わりは、地層が突然堆積しなくなったり、徐々に変化したりして消えていきます。氷河期も遡れば、ある時からはじまっています。
 さらに自然現象には、極端に激しいものが起こることがあります。例えば、地層の中でも、突然、非常に層厚の大きなものが紛れ込んだり、ある時代にだけまったく異なった地層、あるいはある時代にだけ存在する固有の地層があります。また、全地球凍結のような極端の氷河期があったりします。これらの自然現象には、「冪乗則」が働いているのかもしれません。
 過去を探るために、現在の法則性を斉一説として、むやみに適用していくと、重要な時間変化を見逃すことになります。かといって、不可逆は時間には対処なし、と手をこまねいているわけにもいきません。
 斉一説的な繰り返し現象を「時間のらせん」と捉えて、斉一説を注意深く適用していくしかありません。そのような斉一説を、「アブダクティブ斉一説」と呼ぶことにしました。その詳細は別の機会にしましょう。

・連休には花見を・
今年のゴールデンウィークは、
平日を3日挟んでいますが、
前半の3連休と後半の4連休があります。
どちらも出かける予定はありませんが、
家内と近所で花見をしています。
前半では、いつも詣でている神社にいきました。
ソメイヨシノはもう咲いていましたが
ヤマザクラはまだ早かったです。
後半の連休も近所に花見に出かける予定です。

・ゴールデンウィークには・
現在、校務以外の時間は、著作に専念しています。
ほぼ初稿はできたので推敲を進めています。
しかし、文献整理に時間がかかっています。
一気には進められないので
毎日少しずつやっていくしかありません。
ゴールデンウィークは、講義も校務もが少なく
時間があるので、推敲と文献整理に
集中しようと考えています。