2026年2月1日日曜日

289 エイジャ―:斉一説の時代の激変説

 イギリスの地質学者のエイジャ―の説を、最近、知りました。そして彼の提唱した説が、これまで独自に考えていた自説に似ていることに興味が湧きました。調べると、彼が説を唱えた時代も特別でした。


 整然と重なった地層をみていると、その記録は連続的にみえます。その連続的に記録されてきたという考えの背景には、斉一説があります。斉一説は、西洋で近代科学の方法論が成立する時、重要な役割を果たした考え方です。
 科学的方法論が成立する以前、キリスト教社会では、聖書の記述が信じられていた時代でした。大地の変動は、聖書にあるノアの洪水のような天変地異によるものと考えられていました。これは「激変説」と呼ばれているものです。地球の創成も生物の誕生も、神によるものと聖書に書かれていました。そこから、生物種の絶滅も、激変説で説明されていました。
 近代科学が成立する時、地質学でも大きな意識改革がおこりました。地層のでき方も、化石のでき方も、現在起こっている現象と同じ作用が働いていると考える「斉一説」が生まれてきました。
 斉一説では、化石は昔の生物の遺骸で、地層は現在も時々起こる事象で説明されます。地層は、河川の大洪水や海底地すべりなどによって土砂が海底に運ばれ溜まって形成されたもので、当時の生物がも洪水や地すべりに巻き込まれて地層に埋もれたものが化石となるという考えです。
 斉一説では、地球には長い時間が流れていることが前提となっています。長い時間を背景に、生物の進化も起こっていくはずです。時間を遡れば、生物の誕生も地球の誕生も、神の関与や介在を必要としません。地球の創成も生命の誕生も、科学的方法論に基づき、過去のすべての事象、現象が、検証可能な科学の対象となることを斉一説は保証していました。
 西洋では、長い期間続いていた激変説、そして宗教の教義の呪縛が、斉一説の承認によって解放されることになります。その結果、現代の自然科学が成立してきました。もちろん地質学でも、斉一説が導入されてきました。
 ところが、斉一説が当たり前になっていた地質学の事象に、突然、激変説で説明される事象がでてきました。白亜紀と古第三紀の時代境界(K-Pg境界)で起こった恐竜などの大絶滅です。大絶滅が、隕石によるものであると、アルバレス親子(父のLuis Alvarezと息子のWalter Alvarez)によって、1980年に発表されました。学界には大きな衝撃が走り、激しい議論も起こりました。その後、世界各地で衝突の証拠も多数発見され、1991年にはメキシコのユカタン半島沖に衝突の証拠となるチクシュルーブ・クレーターも発見されました。K-Pg境界の大絶滅が、新たな激変説の承認ともなる出来事でした。
 激変説の導入は、単に科学的な論争だけでなく、大きな思想的変革も含まれていました。西洋では、斉一説としての科学的営みが、激変説と戦ってきました。宗教の支配の呪縛から逃れて、斉一説が使えるようになる時代を勝ち取ってきた歴史がありました。そこに突然、再度激変説が登場したのです。激変説は、科学の潮流に逆行する考えでした。隕石衝突による激変説の受け入れには意識革命が必要で、心情的にも反発があり、激しい論争になりました。現在では、隕石衝突による大絶滅は、定説になりました。
 イギリスの地質学者のエイジャ―(Derek Victor Ager、1923-1993)という地質学者がいました。ジュラ紀の腕足動物の化石を研究していました。その研究をもとに、地層と化石記録は不完全だとする概念を提唱しました。
 エイジャ―は、1973年の「層序的記録の本質(The Nature of the Stratigraphical Record)の目次(Contents)に、
More Gaps than Record
(記録より空白が多い)
という章があります。その章の中に、
The stratigraphic record is a lot of holes tied together with sediment. It is as though one has a newspaper delivered only for the football results on Saturday and assumes that nothing at all happened on the other days of the week.
(層序的な記録は堆積物とつながれた多数の穴である。それは、土曜日にサッカーの結果だけが載り、週の他の日には全くなにも起こっていなかったかのような新聞配達されたようにみえる)
と書かれています。
 エイジャーは、厚さ100mの地層が1000万年かけて堆積したタービダイト(混濁流堆積物)を例にしました。この地層は、計算上100年に1mmずつ堆積することになります。ところが、地層の形成メカニズムには、「たった一晩の嵐」で数cmの砂層が堆積したものが、多数含まれていることがわかっています。そのような現象が繰り返されれば、1000万年もあれば地層はエベレストより高くなっているはずです。
 ところが、1000万年で100mの厚さしか残っていないのは、地層の記録が「何も積もらなかった時間」か「積もった後に削られた時間」があることになるはずだとしました。
 著書の結論では、
In other words, the history of any one part of the earth, like the life of a soldier, consists of long periods of boredom and short periods of terror.
(言い換えると、地球のその部分の歴史は、兵士の生活のように、長い退屈と短い恐怖からできている)
と述べています。
 その前段では、
Though the theories of plate tectonics now provide us with a modus operandi, they still seem to me to be a periodic phenomenon. Nothing is world-wide, but everything is episodic.
(プレートテクトニクスの理論は、今、作用の仕組みを提供してくれるが、それでも周期的な現象のように思える。どれも世界規模ではなく、すべてが一過性である)
といっています。
 この著書の刊行当時は、プレートテクトニクスが学界で受け入れ、地質学ではもっとも華やかな時期でもありました。そこに、激変説的な現象を顧みて、短期間に起こる周期的現象が起こっているという考えを述べました。さらに広く捉えると、地質学的記録が、洪水や火山活動などの突発的な天変地異が繰り返されてできている重要性を強調したのです。
 また、エイジャーは、化石の記録から、上下の層で「化石の進化段階が数百万年分もスキップしている」ところが多数あることを示しています。連続して見える地層の境界線が、数百万年間の記録の欠落があること意味しています。「地層とは、ページの大半が破り取られた歴史書である」といい、ごくわずかな「残りカス」だけを見ているとも述べました。
 エイジャ―の「長い退屈と短い恐怖」の繰り返しの概念は、隕石衝突による激変説の登場前、プレートテクトニクスという斉一説のもっとも華やかな時期に述べられたものでした。整然と重なる地層は、斉一説の考えでは、均一で緩やかな変化の積み重ねに見えますが、多くの欠損を含んでいることも主張しました。
 地層の堆積のメカニズムが現在では明らかなってきたので、このような考え方は当たり前になりました。プレートテクトニクスという斉一説が華やかりしころに、地層形成メカニズムは激変説による事件の集積によるものという考えを、エイジャ―は示していました。
 エイジャーの考え方は、生物の進化が「停滞」と「急変」を繰り返すという「断続平衡説」へと繋がっていきます。それは、また別の機会にしましょう。

・大雪・
週末、わが町は大雪となりました。
近年稀に見る大雪でした。
明け方から昼間にかけて大雪になったので、
除雪がはいりませんでした。
道路が雪で埋もれ、1時間も車が入らなければ
スタックする危険性がある状態でした。
日曜日に歩いて帰る時、
車の入っていないところ、
人があまり歩いていないところは
深い新雪に埋もれていました。
ただし、除雪システムが整っているので
翌日には道路は通行可能になっていました。

・年度終わりに向けて・
大学は先週で後期の授業が終わり
今週からは定期試験になります。
来週には大学入試がはじまります。
来月末には、研究室の開けわたしになります。
それまでに、いくつか済ませておくべき
研究上の作業もあります。
大学は、年度末に向けて
慌ただしくなっていきます。