2003年4月1日火曜日

15 無限の宇宙(2003年04月01日)

 私たちは、いろいろなことを考えます。そして、いろいろと考えていく時、不思議なことがおこることがあります。たとえば、「考えること」自体について、考えるような場合です。このような考え方は、メタ(meta-)という前置詞をつけて表現されています。ここでは、宇宙とメタ宇宙について考えてみます。
 宇宙について考えていく時、宇宙の定義をすべきです。でも、じつは宇宙の定義にはさまざまなものがあるはずです。天文学的な定義は、一つの見方にすぎません。人それぞれに宇宙の定義があっていいわけです。
 科学は、定義が曖昧だと誤解を招きやすいので、定義を厳密にしていきます。ところが、宇宙などという科学では最も基本的な術語に関しては、案外、曖昧な定義しかなされていません。
 例えば、天文学辞典では、「宇宙」とは、「すべての天体を含む全空間」となっています。理化学事典では、「存在する限りの全空間、全時間およびそこに含まれている物質、エネルギーをいう」とあります。漠然としています。
 それならいっそ、広辞苑の定義のように、「世間または天地の間。万物を包容する空間」や「森羅万象」という定義のほうがしっくり来るような気がします。宇宙の定義も、こうなると好みに問題ともいえます。
 さて、宇宙の定義について考えたのですが、宇宙の定義は、頭の中で、言葉を使ってなされています。宇宙をどんなに厳密に、科学的、論理的におこなうにしても、この頭と言語という前提から逃れることができません。宇宙を定義するには、頭という場、言語という道具が不可欠となります。いってみれば宇宙とは、頭と言語の中にあるともいえるわけです。
 この考えは、ひとつの真理を示していると思います。それは、自分で知ることや感じることができてはじめて、その存在を認知することができます。そして、その宇宙を認知したことを他者に伝えるためには言語に変換する必要があります。あるいは、自分の頭の中で考える時に言語を利用しているはずです。言語も頭の中にあるわけです。つまり、宇宙とは、頭、つまりは脳の中にあると定義できるのではないでしょうか。ですから、脳の数だけ、定義が存在していいわけです。
 もし、脳がなければ、知ることも感じることもできず、存在しているかどうかすら、わからないのです。そして、いったん、脳の中に記憶として固定されると、もともとの存在や現象が、あろうが、なかろうが、脳のなかで記憶された宇宙は存在し続けていくのです。
 さて、ここからメタ宇宙にいきましょう。不思議で悩ましいメタ宇宙をひとつ紹介しましょう。無限の宇宙が誕生します。
 脳の中の宇宙は、現実の宇宙より「拡大された宇宙」をもつくることだってできます。それは、想像力と呼ばれるものによってなされます。そうなると、現実の宇宙からは、かけ離れた、もっと大きな宇宙が出来上がってしまいます。それも脳が認知してしまいえば、脳の中では存在し得る宇宙となります。
 そんな想像上の宇宙を、新たに頭の中には、作り上げることができます。
 以下文章を注意深くお読みください。
 脳の中の宇宙は、脳の数、つまり人の数だけあるはずです。現在、地球には60億以上の人がいます。ですから、現時点で60億個の別々の宇宙、プラス1個の「現実の宇宙」が存在します。「現実の宇宙」とは、天文学が研究対象としているものです。さらに加えるべき宇宙があります。400万年前に人類という種が生まれて現在にいたるまで、何人の人が存在したかわかりませんが、かつて存在した人の数だけ、宇宙があったことになります。なんと多くの宇宙があるのでしょうか。
 もっともっと考えを広げていきましょう。今、人類だけを取り上げましたが、霊長類、つまりチンパンジーやゴリラ、オランウータンにも、それぞれ脳があり、記憶があるはずです。彼らすべてに、それぞれの宇宙があると考えられます。なぜなら、彼らも頭で感じ、知り、考え、そして記憶します。このような作用をする脳には、宇宙が宿ります。
 脳は、なにも霊長類だけのものではありません。動物、植物、微生物まで、脳を想定することができます。脳という形態ではなく、感じ、知り、反応し、記憶するというような作用のするものを脳と定義すれば、それは生命活動をすることそのものと読み替えることもできます。そうすると、地球の生きとし生けるものすべてに、それぞれ宇宙があると考えていいはずです。
 さらに、生命誕生から現在まで、地球上に存在したすべての細菌、微生物から私たちまで、いったいくつの生命がこの世に存在したのでしょか。その生命の数だけ宇宙があった、そしてあるのです。
 あるいは、私たちが知り得ない宇宙のどこかに生命の宿る星があるとすると、そこに生息し、さらに生息していた生命の数だけ、宇宙の数がさらに加わります。数はわかりりませんが、多数ですが有限の個数の宇宙ができます。その数をUとしましょう。
 そのような考えを進めていくと、「現実の宇宙」とは、ほんのちっぽけな一つの宇宙に過ぎないものといえます。
 さてさて、つぎにもっとすごい数の宇宙に、はなしを展開していきましょう。今まで考えた非常に大くの宇宙は、実は私の頭の中の想像力によって作られたものです。つまり、私の頭の中という入れ物の中だけ存在する宇宙です。そして、これを読んでそうかもしれないという思った人がいれば、その人の頭の中にも同じ数だけ今宇宙が新たに形成されたことになります。そして、もし、全人類にこの考えがいきわたれば、宇宙の数は、掛ける人口の数となり、60億倍になり、つまりU×6×10^9個(10の9乗のことをこう書きましょう)となります。これをMUと書きましょう。
 これは、一種の「入れ子状態」です。その入れ子状態を考えるたのは私ですから、いまいったすべての宇宙が私の頭の中に形成されたのです。「入れ子状態」の存在を意識したとき、宇宙が爆発的に形成されます。
 その入れ子状態を繰り返し想像すると、宇宙形成の連鎖が起きます。その連鎖は、想像した「入れ子」の数が、指数となって増えていきます。このように頭の中の宇宙の数は、想像するといくらでも増えていきます。
MU^n
ここで、nは想像した入れ子の数
となります。そして、無数の入れ子を想像したとすると、宇宙の数は、まさに無限となります。
 無限の宇宙が、頭の中には存在します。その無限の宇宙をも、たった一個しかない小さな頭が飲み込んでしまうのです。
 最後にこの無限の宇宙を収斂させる方法を示しましょう。それは、どんな想像をしようが、「現実の脳」あるいは「現実の私」は、1個の「現実の宇宙」の中にいるということです。そして、私が死ねば、今考えたような無限の宇宙は、私とともに消えていくのです。
 想像力の威力と、かたやむなしさを感じます。そして、「現実の宇宙」の確かさも同時に感じます。
 これが、宇宙とメタ宇宙というものです。どうですか、宇宙が爆発しましたか。そして無限の宇宙が想像できましたか。

・想像力の威力・
 このエッセイは、Uenさんのメールに端を発しています。Uenさんは、「私の宇宙は私の脳の中」とされました。「脳内の宇宙」は、自分の感情や気持ちによって収縮し、「自分でもどうなっているのか謎の部分が一杯」といわれました。それに私が答えたメールを大幅に修正・加筆してこのエッセイとしました。
 メタ的宇宙、それは、入れ子状態の宇宙ともいえます。あるいは、ある体系をそれより外から眺めるということにもなります。そこには不思議な世界が展開されますが、こんな思索の世界を散策できるのも、私たちがもっている想像力の威力です。想像力はすばしいものです。
 例えば、こんな例を出しましょう。
 宇宙の直径は約300億光年です。宇宙を直径を1mの大きさであるとします。
 と、いったとたんに、直径は20cmほどの頭の中に、宇宙が一瞬のうちに想像できます。300億光年の大きさのものを、一瞬にして、頭の中に描き、それを外から眺めているのです。
 これが想像力の威力です。メタ的になるといことは、想像力が豊かになるということではないでしょうか。