2015年7月1日水曜日

162 層に秘められた謎:層状チャート

 日本列島には、全く違う環境、位置で形成された岩石が、多数集まって形成されています。まるで寄木細工のようです。寄木の重要な構成岩石として、層状チャートがあります。層状チャートは、一見、単純なチャートの繰り返しに見えますが、実はそこには解明されていない謎があります。

 チャートという岩石があります。多分、多くの人が目にしたことがある岩石です。透明感がある硬い石で、赤っぽかったり、白っぽかったり、時には緑や黒色を帯びることがあります。大西洋の海岸沿いでは礫状のチャート(フリントと呼ばれています)が多いのですが、日本列島では層状になっているチャートが主な産状となります。このようなものは層状チャートと呼ばれています。縞模様がきれいだったり、見栄えのするものは、庭石などに利用されることの多い岩石です。
 今回は、層状チャートの起源について紹介します。
 まずはチャートの素材からです。層状チャートの素材は、海洋のプランクトンです。プランクトンが死ぬと、その死骸が沈んでいきます。沈む途中、あるいは海底で、プランクトンの体をくつっていた有機物は、すべて分解されていきます。プランクトンの中には、硬い殻を持った種類もいます。殻の材料は、炭酸塩(方解石)や珪酸塩(オパール)などが主なものです。
 深海底では、有機物が分解しまい、残るのは硬い殻だけです。殻も海水の化学的条件によって溶けることがあります。珪酸塩の殻は、浅い深度(4000mまで)では溶けていきます。珪酸塩の溶ける深度は、珪酸補償深度(SCD)と呼ばれています。また炭酸塩の殻は、深い深度(深度5000mほど)で溶けて(炭酸塩補償深度、CCDと呼ばれます)しまいます。
 珪酸塩は深いところでは溶けないので、深海底では炭酸塩だけが溶ける条件となります。このような化学的性質の違いの結果、深海底では珪酸塩の殻だけが残ることになります。深海底に堆積したプランクトンの死骸は、有機物や炭酸塩も溶けていき、珪質の堆積物だけが残り、固まればチャートができると考えられています。
 層状チャートが層を成しているのは、チャートの間に薄い層が挟まって境界となっているためです。薄い層は、粘土岩です。この粘土岩は、赤色をしていて、頁岩状になっているので赤色頁岩と呼ばれます。境界には、何も挟まない(本当は見えないほどの細い層)で割れ目だけが形成されていることもあります。このような細粒の粘土は、大陸から風や海流に運ばれてきたものだと考えられています。
 先ほどのチャートの起源を考えると、頁岩がたまっているときは、プランクトンが供給されていないことになります。季節変化や一時的な異常気象などでプランクトンの活動が急激に衰えれば、このような薄層ができるはすです。このような基本的な原理は、わかりやすく納得できるのものです。ところが、チャートの形成の速度を調べていくと、一筋縄ではいきそうもないことがわかってきました。
 チャートはプランクトンの殻の集まりですから、化石の固まりのような岩石です。ただし、その後の変質、変成により、化石が消えて消えてしまっていることも多いのです。しかし、化石の種類によっては、年代がわかるもの(示準化石と呼ばれています)もあります。チャートは深海、あるいは海表面(プランクトンの生活場)、海洋全体の環境を記録している重要な媒体となります。それも、複雑な処理や分析装置をもちいる放射性年代測定とは全く違った方法での年代決定が可能になります。非常に優秀な記録媒体なのです。
 示準化石により年代がチャートの正確に決められる層があります。連続した層状チャートで年代が決められた層が2つ以上あれば、その間の期間と層の数がわかれば、一層あたりの平均的な堆積速度が見積もることができます。
 いくつかの地域、時代の層状チャートで求められた値が、1000年で数mmというものでした。古い時代の層状チャートからの値は、実際の深海底から採取された深海底の珪質堆積物の推定された値とも一致しているので、正しいと考えられています。頁岩の堆積速度も同じ程度、もしくはもっとゆっくりとしか堆積しないと推定されています。
 層状チャートでは、チャートの厚さは数cmから十数cm、時には数10cmもありますので、チャート一層が堆積するのに、少なくとも数千年、時には数万年かかっていることになります。
 通常はプランクトンが活動しているときはチャート層が堆積しており、数千年か数万年に一度くらいの頻度で、珪質の殻をもつプランクトン全種類がいなくなったことを意味します。珪質のプランクトンは放散虫で、植物性プランクトンを餌としており、自身も大型の動物の餌となります。海洋の生態系の基礎を担っています。頁岩の堆積時期は、チャートの堆積がおこっていないということです。堆積速度から考えられることは、海洋生態系の長期(数千年以上)にわたる停止、つまり大絶滅の記録とみなせるのです。
 繰り返し大絶滅があったことになります。チャート層の数だけ、非常に頻繁に大絶滅が起こっているということです。これは、私たちの生物進化における絶滅観を変えるくらいの意味を持っていました。そんなに頻繁に大絶滅が起こっているとは、だれも想像していませんでした。
 だたし、層の形成には他の説もあり、説によっては別の意味を見出すことになります。
 ひとつは、層が深海底での地すべり、深海底タービダイトと呼ばれるものによって形成されたという説です。深海底タービダイトであれば、一度の地すべりで短期間(数時間から数日程度)で、チャートから頁岩までのひとセットの層ができるわけです。通常のタービダイトの形成メカニズムで説明できることになります。古い時代の層状チャートでは、タービダイトの構造があるという報告もあります。
 もうひとつ説として、ミランコビッチサイクルによるプランクトンの大量発生によってチャートが一気にできるのだという説です。ミランコビッチサイクルとは、地球の天体としての周期(公転軌道の離心率の10万年周期、地軸の傾きの4万年周期、歳差運動の2.3万年周期)を計算して、太陽からの地球への放射の変動周期を総合的に見た結果です。そしてチャートにとって重要なのは、ミランコビッチサイクルの周期によって南極と北極の日射量が変動し、プランクトンが大量発生したと考えるわけです。つまり通常はチャートはあまり堆積せず、頁岩が堆積し、プランクトンの大量発生時にチャート層ができるという考えです。今までの見解と、まったく堆積速度が違ってきます。
 この説の根拠となっているのが、宇宙から降り注いている小さいな隕石(宇宙塵と呼ばれます)です。単位面積あたりの量は少ないのですが、宇宙塵は定常的に降り注いでいます。深海底のような堆積速度の遅いところでは、宇宙塵は、一層から検出できるほどの量あります。
 チャートと頁岩部分で宇宙塵の量が全く違うとことがわかりました。頁岩がチャートより10倍たくさん宇宙塵を含んでいるということです。チャートは2000年程度で堆積し、あとの2万年は頁岩が堆積していて、一層のチャートから頁岩の堆積期間は、2万3000年程度になり、このサイクルはミランコビッチサイクル(歳差運動)に対応しているとされています。
 後で述べた2つの異説はいずれも、違ったメカニズムで層形成がさなれていること、化石年代から見積もられた堆積速度は見かけのものであること、を主張しています。
 それぞれの説に、証拠や根拠があります。今まで、最初に紹介した説で説明できると考えられていたのですが、どうもそう単純ではなさそうです。それぞれの成因の層状チャートがあるのでしょうか。もしそうなら層状チャートの産状を詳しく調べれば区別できるのでしょうか。それともそれぞれの成因が複合して起こっているのでしょうか。あるいは、層状チャートの成因はひとつで、それ以外の説は間違っているのでしょうか。
 謎は、まだ解かれていません。今後に期待したのですが、層状チャートの謎解きは、今はあまり重要なテーマになっていないようです。

・天候不良・
北海道は夏の草の成長がはやく
牧草の一度目の刈り取りが終わりました。
もちろん、雑草の刈り取りも終わっています。
雑草は順調に伸びているのですが、
北海道では天候不順の日照不足と低温と、
農作物への影響が心配されます。
早く、北国らしい青空が
戻ってきてもらいたいものです。

・大学祭・
我が大学の大学祭が、今年から、
秋から夏に開催時期が変更になりました。
当初、学生たちは混乱をして、
一時は開催も危ぶまれました。
日程が一日減りましたが、
なんとか開催にこぎつけました
この間の週末に無事、終了しました。
7月からは、前期の終盤の講義が始まります。
あと少し頑張らねばなりません。