2023年2月1日水曜日

253 論理と実用の狭間

 火成岩の成因に関する因果関係をみてきます。研究では、論理的には正しさが保証されない方法が使われています。マグマだけでなく、自然科学のすべてで起こっていることです。実用を重視しているためです。


 岩石には火成岩と堆積岩、変成岩があるというのは、学校で教わるので、覚えている方も多いでしょう。岩石が3つに分けられているのは、それぞれの起源が異なっているためです。どれほど見かけが似ていても、起源が違えば異なった分類の岩石になります。
 今回は火成岩を題材にします。火成岩とはマグマから形成されたものです。それは事実と多く人が理解しています。例えば、活動している火山で、マグマが流れ出ているのを、映像や画像で見たことがあるでしょう。マグマの存在は、多くの人は知っています。ただし、マグマを調べるのは、危険なのでできません。特別な火山(マグマが定常的に流れてて近づけるところ)で、特別な装備をつけた(耐熱防火服)火山学者が調べることはありますが、一般的にはマグマを直接調べることはできません。
 マグマが固り冷めるのを待てば、火成岩として採取することができます。マグマが固まった火成岩なら、安全に手入できます。マグマと火成岩は対応しているので、火成岩を用いればマグマを調べることになります。
 では、もう少し話を進めていきましょう。マグマは、どうしてできるのでしょうか。
 地下深部で、地球の営みで変動する場所があります。例えば、プレートが沈み込むところやプレート同士がぶつかるところ、プレートが割れて新しいプレートが形成されるところなどが、変動する場となります。そのような場では、通常とは異なった条件(高温、高圧や成分が添加による融点降下など)が現れて、岩石が溶けることがあり、それがマグマとなります。
 溶融条件が継続すれば、マグマがたまっていきます。マグマは、まわりの固体の岩石より体積も大きくなります。膨張で、まわりの岩石(壁岩といいます)に圧力を加え、割れ目をつくっていきます。マグマは周りの岩石より密度も小さいので、浮力が働きます。その結果、マグマは上にできた割れ目にそって上昇していきます。
 上昇していくにつれて、周りの岩石の温度は低くなっていきます。上昇とともにマグマは冷却し、マグマの中で結晶(鉱物)が形成されていきます。温度圧力条件とマグマの組成に応じて、結晶ができるのですが、最初はひとつの種類の結晶ですが、温度が下がるとともに複数の結晶が同時にでてきます。またひとつ結晶で組成が変化すること(固溶体と呼ばれます)もあります。
 マグマの温度低下と形成される結晶の種類や組成の関係は、かなり解明されてきました。例えば、実験室で、岩石を高温高圧状態にして溶かし(マグマの状態)、それを冷却することで、どのような種類の結晶や化学組成になるかを調べる溶融実験があります。化学反応の平衡関係を利用して結晶化の条件を調べることもできます。
 マグマを直接調べることができなくても、これらの方法であれば、多様な火成岩とマグマの関係を調べることができます。つまり、火成岩からマグマがどのような条件でできたのか、を調べることができるようになります。
 さらに話を進めていくこと、火成岩の形成時代がわかれば、その時代のマグマを調べたことになり、時代ごとに火成岩の特徴の変化があれば、火成岩からマグマの時代変化を知ることもできます。
 ここまで述べてきた話には、地質学者が通常に研究している方法です。筋道の通った話に見えますが、考え方や論理にいくつかの飛躍があります。
 まず最初の段階です。時間の流れでみると、マグマ→火成岩の形成順となります。火山で流れたマグマからできた火成岩を採取して調べるということは、時間の流れに沿っています。実際に流れたマグマが固まった火成岩を採取して調べるということ、因果関係がはっきりしたものでした。
 このようないくつかの事例(事実、証拠)から、マグマ→火成岩の因果関係を帰納したことになります。帰納した因果関係に基づいて、火成岩からマグマを調べていくことになります。
 マグマと火成岩の因果関係がはっきりしているものは問題がないのですが、すべてのマグマ→火成岩という関係があるとみなし、火成岩からマグマの性質を調べました。因果関係があるという前提で話を進めてきました。これは確かなでしょうか。
 いくつか事例から帰納した規則性を一般則としました。これは科学ではよく用いられる方法です。そこから、火成岩からマグマを調べるというとき、マグマ→火成岩という一般則を、火成岩→マグマと因果関係を逆にして演繹して利用していることになります。ここには論理に飛躍があります。この因果関係の逆転に問題はないのでしょうか。
 実はこれらは自然科学が潜在的にもっている問題で、解決できないものだとわかっています。帰納には新しい法則を見出す創造性があります。演繹には帰納された法則の適用なので新しいことは生まれませんが、法則の正しさを検証できます。自然界での帰納法は、すべての事例を当たって例外がないことを確認しないと一般則にはできません。法則を演繹ですべての事象で検証するのは、自然界では不可能になります。ここに帰納と演繹の限界があります。
 次にマグマの形成過程についですが、マグマの形成から上昇、火成岩の結晶の過程は、複雑ですが、すべて科学的な必然性はあり、シミュレーションや実験などで起こりそうなことは示されています。自然現象を帰納して一般化して、それを別の場や時代に演繹することを斉一説といいます。斉一説は正しいのでしょうか。
 ある火成岩において、そのような過程が、過去のある場所で起こったと考えていることになります。自然に流れる時間は、エントロピー増大の法則があり、逆転することはできません。エントロピーとは熱力学的に定義される値(熱力学第二法則)ですが、「乱雑さ」とも呼ばれます。時間が経過するとエントロピーも増加していくことから、「時間の不可逆性」を熱力学的に示すものです。すべての自然現象はエントロピーが増加するので、過去に遡ることは、異なった条件を前提とすることになります。つまり、同じ成因で、同じように見える火成岩であっても、時期や時代が異なれば、「似ている」だけであって「同一」ではないことになります。
 科学者は、このような適用限界があるのはわかっています。だからといって、科学を止ることはできません。帰納法と演繹法を用いて、過去に斉一説を適用して現在の科学は進められています。自然科学は実用性を重視します。そこが論理性を重視する数学や論理学とは異なる点でしょう。本来なら論理的に成立しない論理や方法は使えないのですが、実用上、誤差や問題が生じない限り使っていこうという立場です。
 科学者は、論理的には保証されない方法論を用いているという意識を常にもっているべきです。自然現象やえられた事実に謙虚であるべきですね。たとえそれがこれまでの法則に反するものであっても。

・追試・
1月で後期の講義が終わりましたが、
大雪のため、公共の交通機関が大きく乱れました。
定期試験が受けられない学生が多く出てきました。
試験当日の朝、私宛に30通ほどのメールで
大学に行けないという連絡がありました。
大学事務の電話も鳴りっぱなしだったそうです。
これは、追試対象となるので、
多数の追試受験者がありそうなので、
急遽、試験問題を変更することにしました。
成績提出の期限は変更できないので、
来週、一杯、忙しくなりそうです。

・引っ越し・
4月以降、サバティカルで四国に
半年間滞在することになります。
そのために探してもらっていた住居が見つかりました。
住所が決まったので引越し業者を当たったのですが
予約がすでに一杯で
予定通りには引っ越しができないといわれました。
交渉して、なんとか予定通りに
引っ越しをすることができるようになりました。
非常に焦りましたが、調整できて助かりました。
事務的な手続きも、まだ問題が残っています。
順番に対処していかなければなりません。
初めてのことには苦労がつきまといます。