2023年3月1日水曜日

254 アブダクションの訓練を

 多くの人は、常識的に振る舞い、常識にもとづいて暮らしてます。当然、「バカなこと」はしないほうがいいはずです。しかし、「バカなこと」を意図的にするのは、アブダクションの訓練になっているのです。


 教育で知識や技能を身につけることは重要です。そこで、常識や行動規範を身につけることも重要になります。人として、日本人として、社会人として、大学生、高校生、中学生、小学生として、それぞれの立場で、一定の常識や行動規範を身につけることは、生きていくためには必要でしょう。しかしその常識が、独創的な考えを摘み取る可能性もあります。常識と独創性の兼ね合い、それを教育にどう取り入れるか、なかなか難しい問題です。
 小学校では、授業として道徳が導入されました。道徳では、ひとつの答えがない話題を用いて、人ぞれぞれ、いろいろなの考え方を示して、お互いに尊重していくような授業が展開されています。これは、机上での考え、議論となります。日常生活で行動しようとするとき、常識との兼ね合いで、どこまで実践できるかが重要です。
 独創性を重んじることで、常識外の考えで進めていこうすると、いろいろなトラブルや軋轢が生じます。多くの人は、他者を慮って、忖度して、常識的な行動になっていきます。どんなに独創的なものがあっても、行動に移すとなると、多くのひとは躊躇したり、抑制したりしてしまいます。
 独創的な行動は、他者からみると、少々奇異で「バカなこと」にみえます。すると「バカなことはするな」と注意を受けます。本当に「バカなこと」はダメでしょうか。まだ未熟な人たちへの注意だけでなく、大人でも常識に反することをしたら「バカなこと」といわれます。
 もちろん違法なこと、人に害をなすようなことであれば、その注意は真っ当でしょう。本当に「バカなこと」はムダでしょうか。大きな飛躍、ブレイクスルーは、そのような「バカなこと」からしか生まれないのではないでしょうか。少なくとも常識的な考えからは、大発見、大発明はなかなか生まれません。
 多くの人は「バカなこと」はできません。特に長年、常識に囚われてきた人にとっては、常識を越えること、常識を破ることは、難しいものです。しかし、子どもたちは、簡単に「バカなこと」をします。大人が「バカなこと」と止めてしまうのは、独創性を摘み取るのではないでしょうか。道徳でおこなっているような多様な考えを、周囲の人が受け入れる姿勢が必要でしょう。
 アップル社のMacやiPhoneを生み出したスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)は、2005年6月、スタンフォード大学卒業式辞で
 stay hungry, stay foolish
といいました。有名な言葉ですが、再度見ていきましょう。
 「be hungry, be  foolish」ではありませんでした。beではなく、stayを使ったところが重要でしょう。beとは「そうあること」を意味しますが、stayとは「あり続ける」こと、その状態を維持してくことを意味します。hungryであり、foolishであり続けろといったのです。上で述べたこと「バカなこと」をするのと同じ趣旨だと思います。
 「バカなこと」をしたり受け入れるのは、「アブダクションの訓練」ではないかと思います。科学では帰納法と演繹法を使うのですが、アブダクション(abduction)とは、多くの人が実際にはおこなっているのですが、あまり定式がされず、意識していないものです。
 帰納法とは、多くの事実から法則性を見出すことです。その法則は多数の事実から創造的に見出される独創性のあるものです。しかし、法則性は与えられた事実の範囲から導かれたもので、その事実の範囲外に適用できるかどうかはわかりません。ですから、帰納法から生まれる法則性は、あくまでも仮説になります。仮説がどこまで適用できるのかは、演繹法で調べることになります。このようは仮説の検証過程を「仮説演繹法」と読んでいます。
 適用範囲内では法則性は大いに利用することができます。法則を知っていれば、演繹でいろいろと応用できることになります。このような帰納法と演繹法、両者をつなぐ仮説演繹法は、科学ではごく普通に利用されています。
 演繹を繰り返しても、仮説の適用範囲を広げたり、適用範囲を限定したりすることはできますが、新しい仮説を生み出すことはできません。演繹には創造性が内在されていません。
 では、仮説を思いつく方法が必要になります。それが、アブダクションです。アブダクションとは、いくつかの事実(ときには事実がなくても)から、自由に、法則性を推測していきます。事実や根拠がなくてもいいのです。とにかくなんらかの仮説(作業仮説)を発想していきます。その作業仮説は、演繹で検証したり否定すること、否定されたら再度アブダクションを繰り返せはいいのです。
 アブダクションは考える方法なので、小さなものから、大きなもの、常識的なものから非常識なものまで、いろいろなものがあります。アブダクションは、人のもっとも重要な能力である独創性に直結しているものです。できれば、大きな独創性をもったものが有用です。大きなアブダクションは、「バカなこと」の中にあるのではないでしょうか。素晴らしものを生み出してきたジョブスは、それを大学の卒業生に伝えたかったのではないでしょうか。

・祝賀会・
3月になりました。
2月中旬から三寒四温として
暖かい日もありました。
温かい日には雪解けも進んできます。
大学や学校は、卒業の季節になります。
今年からは、学位記授与式とともに
祝賀会も飲食はできませんが、実施されます。
久しぶりの復活する祝賀会となります。
飲食ができないのは残念ですが。

・愛媛のサバティカル・
今年の3月は、いろいろな意味での区切りとなります。
4月からは四国愛媛県に
半年間のサバティカルがはじまります。
今年の4年生が最後のゼミ学生となります。
そのことは学生には伝えています。
コロナ禍のもとで付き合いとなってしまいした。
そんな時代なので、残念ですが、
致し方ないことです。
過去より未来を見ていきましょう。
愛媛での生活にワクワクしていきましょう。