2024年2月1日木曜日

265 複雑な連環:地球形成のシナリオ

 地球形成の新しいモデルが、提唱されてきました。そのモデルは、これまでの課題を解決できました。そこには複雑に絡み合った条件が、関係し合っていました。少々複雑ですが、地球形成の最新のシナリオを紹介しましょう。


 現在、生命の起源を考えています。生命起源は、地球の初期に起こったはずです。なぜなら、最古の化石で確実なものは35億年前で、生命の痕跡は41億年前まで遡れます。古い時代に生命は誕生していたので、生命起源には初期地球の状態が重要な前提条件となるはずです。地球の起源、あるいは初期の状態を把握して置く必要があります。
 地球形成には、いくつものアプローチがあるのですが、地球外の証拠や制約条件から考えていく方法と地球内に存在する地質学的証拠から考える方法とがあります。
 地球外の証拠として、他の天体や隕石の情報が使えます。金星や火星は、地球と同じ頃にできました。火星には探査機が降りて調査しています。月でも探査も進められ、アポロ計画による岩石試料もあります。月の情報も有効になります。
 太陽系外の惑星の情報から、惑星系は非常に多様だとわかってきました。多様な惑星系の形成過程が説明できるモデルがあれば、地球もその一環で形成されたと考えられます。「タンデムモデル」が最近提唱されました。2つの軌道上だけで惑星が形成され、内側で岩石惑星が、外側で氷惑星とガス惑星ができます。形成条件により、多様な惑星系ができることがわかってきました。
 惑星形成のシミュレーションで、形成終盤に原始惑星同士の衝突「ジャイアントインパクト」が起こり、地球にもあったと考えれています。激しい衝突ですが、短期間(数ヶ月から数年)で月が形作られました。衝突は、45.2億から44.4億年前とされています。できたての月も地球にも、表面には、岩石がどろどろに溶けたマグマの海がありました。
 月の表面は侵食はなく、できたときの状態をよく保存しています。表面のクレータの研究から、激しく隕石が衝突した時期があることがわかりました。「後期重爆撃」と呼ばれ、43.7億から42億年前に集中的に起こったことがわかってきました。
 さらに、惑星系形成の後半には、ガス惑星(木星と土星)の軌道が不安定になり、太陽に向かって落ちていき、地球軌道付近にまで入ってきて、その後外にでていくことがわかってきました。
 隕石は、小惑星帯から飛来していることが軌道計算からかっています。隕石は、小惑星帯の情報をもっています。隕石という実物があるので、化学組成を調べたり、年代測定ができます。隕石から、太陽系形成時、太陽系全体が固体すべてが溶ける熱い状態から、冷却されて固体ができた過程がわかりました。それらの固体が、惑星の材料となりました。一部が小惑星帯に残り、太陽系の材料の化石ともいえる隕石もあります。
 隕石の中に、炭素質コンドライトと呼ばれるものがありました。この隕石はもっとも古い45.6億年前の年代で、地球の大気や海洋をもたらしたという証拠もあります。ですから、炭素質コンドライトがあれば、大気も海洋も固体地球もすべてそろうと考えられ、地球や惑星の材料とされていました。
 惑星形成の時、太陽の位置から、近いところは熱く、離れると冷たい条件となります。その条件を見積もっていくと、地球軌道では、揮発成分(大気や海洋の材料となるもの)をまったく含まない岩石しかできないことわかりました。小惑星帯にある天体の分布でも、揮発成分を含んだもの(炭素質コンドライト)は外側にあり、内側には還元的で揮発成分を含まないもの(Eコンドライトと呼ばれるもの)になっています。原始地球の材料には、揮発成分がありませんでした。大気も海洋もない「裸でドライ」な初期地球ができたことがわかってきました。
 そうなると、いつどこから揮発成分が供給されたかが問題になります。このとき、月の後期重爆撃が参考になります。月で起こった重爆撃は、当然地球でも起こったはずです。この重爆撃は、小惑星帯にあった天体で、その中には炭素質コンドライトの成分も含まれていました。
 ガス惑星が現在の軌道に戻る時、小惑星帯を天体の軌道をかき乱すので、そこから太陽系の内側に落ちてくる天体も多数あったことになります。それが、後期重爆撃となりました。爆撃した天体の中に、炭素質コンドライトがあり、地球に大気と太陽をもたらしたことになります。
 地球内部から情報としては、最古の岩石を探していくと、40億年前ころまでのものは見つかりますが、それ以前のものは見つかりません。ただし、鉱物(ジルコン)では、40億年前より新しい堆積岩の中にある砂粒として見つかります。43億年前までのものです。つまり岩石としては残されていないが、鉱物片としては、かろうじて表層のどこかに残されていたようです。
 以上のことから、地球形成の新しいシナリオができました。
 地球は還元的な天体としてできました。表層は裸でドライなものでした。45億年前ころ、すでにできていた地球に、小天体が衝突しました。その結果、月ができ、地球もリセットされた状態となりました。月にも地球にもマグマの海ができ、やがて冷えてきます。揮発成分はまだないので、裸でドライの状態でした。43億年前ころ、小惑星帯にあった揮発成分を含んだ小天体が、地球や月に多数飛来します。その小天体から大気や海洋になる揮発成分がもたらされました。
 以上の地球形成の新しい形成モデルとなります。非常に複雑な条件が絡み合って、新しいモデルはできています。シンプルに考えられればわかりやすいのですが、真実は簡単だとは限りません。生命誕生のシナリオも、この延長線上で考えなければなりません。時間的には非常に厳しい条件(1億年程度の短時間)で形成されなければなりません。本当にこのモデルでいいのでしょうか。

・本の執筆・
2月になりました。
後期の講義が終わったので、精神的には開放感があります。
大学の行事としては、重要な次々とあります。
しかし、束縛時間は限られています。
校務さえ順調にこなしていけば
研究時間がたっぷりと確保できます。
今年も、2月から3月かけては、
本執筆を集中的に進めてこうと考えています。

・雪まつり・
札幌の雪まつりが、今週末からはじまります。
先日も札幌駅前のデーパの地下に入ったら、
非常に多くの人がいました。
ですから、雪まつりには、もっと多くの人が
訪れることになりそうです。
子どもが小さい時は
雪まつりにもでかけていましたが、
今では夫婦でテレビで特集を見る程度です。
長時間外にいるのは、寒さが堪えます。
歳ですから仕方がありませんね。
健康を最優先にしていましょう。