2014年6月1日日曜日

149 インテリジェンスの源泉

 現代社会はITの普及により、手間さえ惜しまなければ、大量の情報をえることができます。しかし、大量の情報の中から有用な情報を得るためには、見識や知性が必要になります。このような知の構造は昔からあるものですなのですが、身につけるのは難しいようです。

 2013年10月25日「特定秘密の保護に関する法律(秘密保護法と呼ばれています)」が制定されました。まだ施行されていませんが、制定後1年以内に施行されるはずです。この法案の制定にあたっては、秘密となにかということに関して、いろいろな議論がわき起こりました。国家として秘密はあるだでしょうし、国家政策上、秘密情報を守ることも必要なことだと思います。しかし、もっと重要なのは、秘密から抽出される国家の命運を左右するほど重要な情報が漏ないことです。そのためには、秘密保護も必要になるでしょう。
 一方、日本のような民主国家、あるいは立憲主義国家は、主権者である国民に対して、情報開示をする義務があります。そして一時的に秘密にすべき期間があったとしても、その期間が過ぎれば、すべての情報を開示されるべきでしょう。ところが、情報を開示するか秘密にするかの境界は、なかなか難しいものです。判断をするには、それなりの見識、知性が必要だと思います。
 情報を読取る能力や知性を持った人は、漏れてくるささやかな情報から、有用な情報を抽出して、秘密にされている重要な情報を読み取ってしまうかもしれません。隠す側と読み取る側は、情報の探りあいでイタチごっこになっていくでしょう。いわゆる諜報戦となります。
 国家の維持、情報管理だけ考えるのであれば、できるだけ情報は公開しない方がいいのはわかります。しかしそれは、現代の民主国家の姿には反する方向に向かっていくように見えます。その兼ね合いをきめるのにも知性が必要でしょう。
 アメリカの諜報機関である中央情報局のCIAは、Central Intelligence Agencyの略号です。CIAで用いられているintelligenceという単語は、通常は「知性」という意味で使われます。しかしCIAのような使用法では、intelligenceは、「諜報」や「情報」という意味で用いられています。「情報」は、英語ではinformationになります。
 informationとintelligenceの違いはどこにあるのでしょうか。なぜ日本語では、両者が混乱して使われているのでしょうか。
 informationは「情報」で、ただ単なる情報にすぎず、そこでは全く加工されていないものが大半で、ありとあらゆる情報をさしています。現代社会では道具やITの進歩により、労力さえかければ大量の一次情報の収集は可能となりました。一方、intelligenceは、「知性」という意味の他に、加工された情報という意味があります。行間(inter)を読む(lego)という意味合いがあるともされています。つまり、intelligenceは、informationから意味ある情報、抽出された重要な情報、選りすぐりの情報となります。情報抽出には、確たる「知性」が必要となります。本来、秘密保護法で守るべき秘密は、なんでもかんでものinformationではなく、intelligenceやそれに近いものだけのはずです。その境界は不明瞭ですが、境界を見極めるのが知性です。
 さて、話題は地質学の研究手法に移ります。
 地質学では、自然の中にある石や地層などを野外で調べて、そこから必要な情報を読み取っていきます。読み取るときに重要なことは、野外でしか収集できない情報を、もれなく読み取っておくことです。野外調査では、試料も採取します。試料は、実験室でさらに深く、野外では読み取れない情報を探っていくのに用います。試料を計測、測定したり、分析したりして、情報を読み取っていきます。野外から室内までの情報収集を通じて、自然から可能な限り情報を読み取っていきます。
 ある露頭を例して考えてきましょう。
 露頭を構成している岩石をみて、どのような種類の岩石があるかを見極めます。種類を決めるにしても、野外ですから、肉眼による観察、小さいものをみるときにはルーペを使用します。限られた手段ですが、肉眼と経験は、簡便さと迅速さはなかなかのものです。岩石の特徴から、岩石を区分し、分類していきます。区分されたそれぞれの岩石が、露頭内でどのよう特徴や構造をもっているのかを調べてきます。各岩石が、どのような関係をもって接しているのかを見極めます。そして、境界の関係や地層の構造を走行、傾斜などを測定することで、三次元的に記録していきます。
 ここまでは、加工されていない「生」の一次情報になります。一次情報から、室内実験に移ってきます。露頭毎の構造情報は、一枚の地形図に整理して、岩石や地層の分布を地形図上で表現してきます。それが地質図となってきます。見えている境界は実在のもの、見えてない境界は推定によって描かれ、地域全体の地層や地質の関係を考慮し、地下の分布までを考えた地質断面図が加えられた地質図が完成します。
 ここまで作業では、露頭からえた情報は一次情報で、地形図に集積され、実在の関係をしめされのが二次情報になり、推定が加えらた完成された地質図は、研究者の知性による抽出と解釈が加えられた一種の思想図となります。
 室内実験では、野外でえた試料に対して加工してきます。岩石の薄片を作成して顕微鏡を用いて詳細な組織を観察していきます。野外で決めた岩石名を、確認したり、細分していきます。鉱物が岩石内の組織の特徴から岩石に関する微小部分による特徴を記載していきます。さらに、岩石の化学組成の分析、鉱物の量比の測定、鉱物組成の分析、微量な成分、同位体組成、年代測定などをしていきます。より詳細な一次情報を加えてきます。
 これらの一次情報を、解析、統計などで、二次情報に加工、抽出していきます。その過程で統計値や分散図などので視覚的に情報を理解してくこともよくなされます。
 すべての情報の最終的な形として、地質図の解釈だけでなく、その解釈に整合的な岩石の形成プロセス、冷却過程、多様性形成メカニズム、起源物質の推定などの、より深い自然の秘密を解読していくことになります。地質学はこのようなプロセスを経て、研究目的を達成していきます。それが、自然の神秘を垣間見ることになります。
 さて、地質学の研究手続きとして、一次情報をえて、二次情報に加工していき、最終的な目的である自然の秘密を読み取るという作業は、informationからintelligenceを抽出作業になっています。ですから、意味あるintelligenceの抽出をできるかどうかが、研究の成否を決めるのです。そして、抽出されたintelligenceの価値が、研究の成果を決めるのです。
 地質学では、野外調査は人が額に汗して労力と忍耐力で一次情報を得ていきます。室内実験も多大な作業量を伴うことが多く、機械化もされているので力ではなく、気力と忍耐力さえあれば、大量の一次情報を得ることも可能になってきました。つまり一次情報は、人が労力を使って大量に集める必要があります。これは、時代を越えて必要な作業となっています。
 現代ではコンピュータやアプリケーションの発達で、ルーチンワークであれば、あまり頭を使うことなく二次情報は得ることができます。アウトプットである論文や作図などもコンピュータのアプリケーションで簡単になってきました。ですから、研究者の腕のみせどころは、最終的な研究目的であるintelligenceにおける価値の抽出にかかっています。
 informationからintelligenceを抽出作業は、労力と知性が必要です。秘密でも研究でも、一次情報は人の労力によって得られ、最終的なintelligenceの抽出とその価値は人の「知性」が成否を決めることになるのでしょう。これは今も昔も変わらない営みです。人の労力と知力が知の源泉といえます。

・折り返し地点・
早いもので、もう6月です。
北海道は、5月初旬は好天がつづいたのですが、
寒さが残っていました。
後半はあまり天気が良くない日が続きましたが、
気温は暖かく初夏めいてきました。
大学は、前期の講義も半ばになってきした。
新入生もやっと落ち着いてきたように見えます。
これからは私自身が落ち着いて研究に取り組みたいところですが、

・教育実習・
教育実習への訪問指導が毎週入ってきます。
先日、私には最初の訪問指導にいってきました。
これから、毎週あります。
それが実は問題で、休講を可能な限り少なくしながら
進めていく必要があります。
でも、これは誠意をもって
物理的にできる範囲でやるしかありません。