2004年2月1日日曜日

25 大英自然史博物館(2004年2月1日)

 ロンドンのハイドパークのすぐ南側にある自然史博物館を2003年秋に見学した。科学教育担当の人と、鉱物の研究者に館内の案内を頼み、いろいろ見せてもらいました。そんな自然史博物館で感じたことを紹介しましょう。

 大英博物館のはじまりは、サー・ハンス・スローン(1661~1753)が集めた8万点のありとあらゆるコレクションが、彼の遺言によって国に寄贈されたことでがはじまりでした。その遺言に基づいて保管する場所として、モンダギュー・ハウスが購入され、1759年に一般公開されました。
 その後も各種のコレクションや収集物が集まり、手狭となった建物を、バガート・スマークの設計によって大増築工事が行われました。その結果、現在の大英博物館となりました。
 収集資料はその後も増え続け、何度かの増築と、新聞や図書、人類などが、別の場所へ移転されました。移転した中に、自然史分野もあり、1880年、自然史博物館が独立しました。
 ハイドパークの南側のアルフレッド・ウォーターハウスが設計した壮大なラインラント・ロマネスク様式の建築物がそれであります。骨組みは鉄骨で、内装も外装も表面は灰色と黄褐色の2色の素焼きのテラコッタで仕上げられています。幅200メートル以上ある巨大な建物です。
 1909年には、自然史博物館から科学博物館が、独立しました。現在も、自然史博物館は改修中であります。アースギャラリー(Earth Galleries)が新しくつくられ、ダーウィンセンター(Dawin CentreのPhase 1)が現在公開されています。
 自然史博物館では、1920年から集めた資料数が2200万点で、総資料数4億点で、毎年30万点ずつ増えているそうです。かつては代表的な生物標本は、世界中からすべて大英博物館に入っていました。今でも、標本は送り続けられています。
 人類の知的な蓄積がここには面々と続いています。長い歴史と知的資産を集め続けた歴史の重みを感じさせます。30万点という資料数は、日本の大規模な博物館の総資料の何割かにあたります。それが1年間に収集されているというのは驚きです。そんな資料点数を処理できる能力にも驚かされます。
 現在の自然史博物館は、従来の古典的な分類展示と新しい現代風の展示が混在しています。地質関係では鉱物の展示が圧巻です。広い部屋に累々と鉱物の分類展示がなされています。その展示点数は1万2000点です。現在見つかっている4000ほどの鉱物種の内、2000点が展示されているのです。4000種の鉱物の中には、顕微鏡で見なければならないような小さな鉱物もたくさん含まれています。ですから、目で見える主な鉱物は、ほんとんど網羅的に展示されていることになります。実物と物量の迫力です。
 そしてこの広い一般向けに展示されているのは、全鉱物資料の10%に過ぎないということです。気の遠くなるような量です。そして収蔵庫には、ダーウィンの液浸標本、南極探検のをしたスコットの岩石標本、歴史に名を成した研究者たちの標本がつぎから次への出てきました。それらの貴重な資料が、公共の施設にきっちりと保存されています。圧倒的な時間の重みと科学をリードしてきたイギリスならではの知的財産でしょう。
 世界最大のダイヤモンドの原石カリナンのレプリカ、そこから作り出された宝石のレプリカもあります。世界最大の金のナゲットのモデルも展示されています。世界一がさりげなく展示されているのです。宝石類も原石とカットしたものをたくさん展示してあります。もちろん、イギリスの各地の鉱物も展示されています。
 隕石の展示物は少しですが、分厚い本ができるくらいのコレクションも持っています。見えるところで展示されているのは、博物館の持っている資料のほんのごく一部にすぎないのです。ですから収蔵庫にある資料を想像すると、その量に圧倒されます。
 地質関係の展示は、Earth Gallerisで新しい展示がされています。資料の質は申し分なく立派です。教育に配慮された展示です。アトラクティブにするために、動く装置、操作できる装置などが、各所においてあります。ストーリーを説明するために、資料を量ではなく、重要なものを少数それも効果的に演出して見せています。このような展示は効果絶大です。「見た」という印象を強く与えます。
 でも、これは私には、どうもいただけません。できてすぐならよかったかもしれませんが、時間がたつとあちこち動く装置が壊れています。それに、ストーリー中心の展示は、一度見れば満足します。一方、膨大なる物量をもって展開された展示は、面白みは少ないかもしれませんが、あきが来ません。
 自然史博物館は、2つの方式が混在しているので、全体としては統一にかけます。ですから、全体を見た人は、混乱を起こします。私としては、自然史博物館は大量のすばらしい資料を持っているのですから、それを淡々と分類展示しているだけで、十分迫力のある展示なっていると思えます。
 そのような分類展示は、100年以上にわたって人々に見せるということを実践してきた歴史、実績があるのです。しかし、新しいタイプの展示が長い目で見たとき、それが維持できるかという保障がありません。短期間なら効果があるという実績はあります。しかし、せいぜい10年もすると陳腐化して、みすぼらしいものにあるという失敗例は各所にあります。なぜ、大英自然史博物館ともあろうものが、このような展示に切り替えつつあるのか不思議です。
 鉱物の研究者に研究室を見せてもらったのですが、そのときに新しい展示室は展示業者が考えたのだといってました。新しい展示を暗すぎるし、ディズニーランドのようだと批判していました。展示を作る人と資料を管理している人、研究者がそれぞれ考えが違うのだといってました。
 そんな批判もあってか、展示場が当初より明るくなっていました。5時を過ぎると急に展示場の明かりが暗くされました。それは、そろそろ閉館時間であることを知らせるためでしょうか。しかし、おかげで、もともとの設計どおりの明かりで展示を見ることができました。するとやはり当初の意図された展示効果はあります。代表的な資料が薄暗い展示場で効果的に浮かび上がってきます。しかし、鉱物や岩石が良く見える明るさではありません。
 ダーウィンセンターは、収蔵庫を公開して、研究者がライブで講義をおこなっています。これには感心しました。液浸標本のために、8階建ての収蔵庫を建てているのです。Phase 2では、昆虫と植物のために、地下1階、地上7階の巨大な収蔵庫が、2007年には完成させるそうです。
 収蔵庫の公開として、ガラス張りにされた収蔵庫が見られるのと、収蔵庫のツアーがあります。ライブは、300人以上いる研究者が毎日午前と午後の2回、公開で講義をしています。私は2つの講義に参加しましたが、ひとつは海の微生物の研究者と海洋環境の研究者が出演していました。別のところにある海洋博物館にきている小学生とインターネットでつないで双方向のライブ講義をしていました。もうひとつは鳥の研究者で鳥の調べ方を講義していました。
 多くの研究者がいるので、ノルマとしては、1年に1回講演をすればいいわけです。それほど負担ではないはずです。もともと研究者の研究成果を発表するのも仕事の一部ですから。市民向けであると必ずしも慣れていない人もいるでしょうが、それもしかたないことです。でも、これは非常にいいことだと思いました。

・イギリス・
 イギリスは、面積が24万4000km2(日本の約2/3)、人口が6000万人(日本の約半分)、ロンドンの人口は700万人(東京の約半分。)、緯度が北緯50~60度(日本の北海道稚内の45度より北)で、ロンドンは北緯51度(樺太の中央部あたり)です。しかし、メキシコ湾流がきているため、冬も温暖で夏も涼しい気候で、雨が年中一定量降ります。でも、天気がめまぐるしく変化します。今年の夏は、ロンドンは猛暑だったようですが、私がいった9月上旬は気持ちのよい秋の初めの気候でした。

・アッテンボロー・
 自然史博物館を見学しているとき、入り口付近に人が行列をつくっていました。博物館にアッテンボロー氏が新しく著書を出して、サイン会をするという広告が博物館のショップにありました。もしかしたと思って、よくみると、やはり、アッテンボロー氏が新しく出した著書のサイン会をしていました。さすがに自然史博物館です。有名人がサイン会を開くのです。本には興味がなかったのですが、アッテンボロー氏には興味があってので、しばらく見ていました。写真も撮らせていただきました。