2023年7月1日土曜日

258 効率化への違和感での対処

  ある時、ふと違和感を感じることがあります。違和感は、ささやかであるほど、無視してしまいがちです。違和感を大切にし、追求することが、効率化の弊害から逃れる術ではないでしょうか。


 かつて日本は技術立国や工業立国として、世界市場を先行し、席巻していました。今では、その地位が低下しています。市場での競争に勝つために、オートメーションによる大量生産を進めてきました。その時、時間、経費、人手などの効率化が至上命令となっていました。
 効率化が進めば進むほど、生産性はよくなり、利益も上がってきました。一方、人間的な側面がなおざりにされていくことになりました。それが大きな社会的矛盾を産んでいました。
 その反省から、生産現場で作業する場合、個人の自由裁量、個人の個性を重視したり、個人の意志を重んじたりする風潮が生まれてきました。生産現場での個々のアイデンティティの容認は、働きがいとなり、生産性や品質も向上しきました。加えて、多様な需要へ対応も可能となりました。
 生産現場だけでなく、社会や生活においても、アイデンティティの必要性は多くの人が理解し、実践するようになってきました。アイデンティティを認めることは、多様性の容認に繋がっていきます。多様な個への対処には、手間や時間、経費がかかることになります。
 効率化を怠ると、価格に反映されたり、競争に負けたり、品質の低下が起こってきます。その結果、多様性に配慮する余裕がなくなってきます。まして逸脱した多様性まで、通常の対処をしようとすると、非効率的になります。その結果、対処不能、機能不全を来しかねません。このような負のスパイラルに陥ると、簡単に回復はできなくなります。
 多様性の容認の方向性は、効率化とは相反するものになります。効率化と多様性の配慮の兼ね合いは必要ですが、難しいものになります。例外的な事例へどこまで対処すべきでしょうか。特別扱いとすべきでしょうか。
 さて、ここで話は全く変わります。
 大量の化学分析をするとしましょう。岩石の中のある鉱物を、小さな部分で大量に分析していきます。目的は、その鉱物の平均的な化学組成を知ることとしましょう。このような分析方法は、鉱物の記載として、ごく普通におこわれているものです。
 分析データは、一般にバラツキが生じます。自然物の分析なので、仕方がありません。もし、バラツキが少ないときは、中心値付近が、その鉱物がもともともっている値とみなせます。この分析値は使用できます。この状態のデータを noDiv と表記しましょう。
 もし、データにバラツキが大きいときは、その原因や理由を考えなければなりません。試料の調整(試料の研磨や表面処理)や装置に問題があれば、根本的対処が必要になります。そして、その値には信頼性がないので、研究に使用することはできません。バラツキの原因追求が必要になります。
 一方、鉱物自体に不均質がある場合にも、バラツキが生じます。そのバラツキ自体が、鉱物の本質的な属性となります。このような本質的なバラツキをもったデータを mixDiv と表記しましょう。
 中心値がある noDiv は、正規分布に従うバラツキになるはずです。正規分布は、データのバラツキを頻度図にすると、中心値の周辺に釣り鐘状に左右対称に広がるものになります。中心値が求められ、その精度を示すために、誤差を表記します。標準偏差や95%信頼区間などの統計を用いて、誤差を示すことができます。
 最近は、効率化を図られて、分析装置の自動化は進んでいます。大量の分析点を、研究者が指定しておけば、あとは装置がプログラムに従ってその点を測定していきます。点が大量になっても、時間をかけて、装置が自動で測定してデータを出してくれるようになってきました。このような自動化や効率化は、研究者にとっては理想的な状態です。自動分析している間に、別のことに頭を使うことができます。
 次に、 mixDiv の場合を考えてきます。
 もし、鉱物に不均質があれば、正規分布の乱れとなって現れるでしょう。不均質の部分がほんの少しの領域しかない場合や、その不均質が均質の部分と比べて少しの違いしかない場合も、正規分布を乱しますが、その乱れは小さいものになります。このような小さな乱れは、見逃しやすいものです。
 研究者が不均質を認識していなければ、見過ごしたり、無視したりしてしまうでしょう。いずれの小さな不均質も、鉱物の本質的な特徴のはずなのですが、統計処理で漏れてしまいます。
 不均質の可能性を考慮に入れていないとなりません。事前に鉱物を顕微鏡などで詳しく観察して把握しておくか、それがわからなくても、不均質があるかもしれないと思って、データを見ていく必要があります。そして、外れたデータがあった場合、それは結晶でどこだったのか、それは本質的なものなのか、それとも試料調製の問題なのかを、その都度、見極める必要があるはずです。
 通常の鉱物の分析では、早く中心値が欲しいと考えています。そのような例外探しは、事前に存在がわかっていなけばしません。あるかないかもわからない状態で進めることはありません。例外ねらいは、成果を考えると、リスクが大きく、非効率です。
 ところが、だれもが無視していること、当たり前だと思っていることに、大きな発見が生まれることがあります。些細なことほど、盲点となり、それに気づくことから、大きな発見があります。
 大量のデータを欲することと、重要な例外の発見は、異なった方向性をもっています。両者を追いかけることは難しいでしょう。どうすればいいのでしょうか。
 ひとつは、「違和感」のアンテナを敏感にしておくことでしょう。例外の発見は、ささやかな違和感となるはずです。違和感に敏感でなければなりません。違和感を検知して、そこに目を向けるの姿勢が必要でしょう。この違和感を常にもつことが重要だと思います。時間や心に余裕がないと、困難ではあるのですが。
 さて、最初の効率化と多様性の共存の話と、ここでの例外の発見と違和感の話を結びつけましょう。
 効率化を進めながら、個人が違和感を感じた時、個人でそれを追求できる裁量を認める必要があります。その追求の結果を組織で共有することが必要ではないでしょうか。そのために、違和感のアンテナが重要ですが、個人に心の余裕が必要になります。そのような作業空間や環境を整えていく必要があるでしょう。このような環境が重要なことは、誰もが納得できるでしょう。問題は、個人がどこまで実践できるか、どれだけ多くの個人が実践できるか、それを組織が見てることができるかでしょう。効率化の中に多様性や違和感を埋もれされないようにしましょう。

・前半の調査終了・
四国は梅雨に入っています。
台風の影響で激しい雨もあり、
各地で土砂災害もありました。
野外調査にも影響がでましたが、
そのようなものはささやかなものでした。
7月上旬で前半の調査は一段落します。
7月下旬から8月中旬までは、
各地が混むのと、暑さもあるので
地元で大人しくするつもりです。

・再会・
このエッセイは予約配信しています。
この時期に、京都に帰省しています。
息子たちとの会食して、
親族での相談も予定しています。
暑い時期でしょうが、
再会を楽しんできます。