2023年4月1日土曜日

255 沈思黙考できる心の余裕:半年間のサバティカル

 このエッセイが発行される4月1日に、北海道を離れて四国に向かいます。半年間のサバティカルで、愛媛県に滞在します。以前に滞在した西予市で再度過ごすことになります。滞在中の目的を紹介しましょう。


 4月から、サバティカル(研究休暇)で半年間、愛媛県西予市にて研究に専念できる時間がえられました。2010年にも、1年間のサバティカルを、西予市にて過ごしました。1度目のサバティカルからは、12年が経過しています。
 前回のサバティカルの決定にあたっては、いろいろ予定変更がありました。当初、子どもたちも家族全員で、1年間滞在するつもりでしたが、大学での改組よって、サバティカルの申請時期がズレることになりました。その結果、家族状況に変化があり、単身での赴任となりました。
 今回、子どもたちは同居していないので、夫婦で滞在することになります。受け入れ先も、前回の西予市城川地質館から、四国西予ジオパークミュージアムに変わりました。滞在後ジオパーク申請の準備をはじめ、2013年に日本ジオパークになっています。博物館も、西予市城川地質館を更新して、ジオパークミュージアムを新築して昨年春に開館しました。以前、執務していた場所が物置になり、住居も老朽化で立ち入りができないようです。
 12年間もたつと、いろいろなところで変化が起こっています。
 もちろん、露頭や岩石、自然は10年程度では変わらないのですが、人の営みによって変化します。前回の滞在で利用していた施設も、まだ残っているものもあります。変化したものと変化しないものがありそうです。変化していないとはいっても、なにかが変わっているはずです。それは研究テーマとも関連しています。変化を探ることは、いってから楽しみとしましょう。
 サバティカルでは、達成したい研究テーマがあります。申請時にもそのテーマで明記しています。科学教育と地質学、地質哲学で3つの目的で取り組む予定にしています。最後の地質哲学が重要な目的と考えています。
■科学教育:四国西予ジオミュージアムを通じての教育実践
 これは、なにができるか不明ですが、なんらかの貢献ができればと思っています。個人的には、いくつかのメールマガジンで西予の地質に関する教育用エッセイを書くことで貢献するつもりです。
■地質学:古生代、中生代、新生代までいろいろな時代の島弧の付加体、島弧固有の火成岩類の野外調査
 地質学は、野外調査を中心に進めていきます。四国の各地をめぐり、付加体や火成岩類の典型的な露頭を観察していきます。野外調査をもとに、次の地質哲学へと結びつけたいと考えています。
■地質哲学:地質学的時間記録の様式の哲学的思索
 少々難解で抽象的ですが、次のようなことを深く思索していこうと考えています。
 地質学(あるいは、自然現象全般も)において、時間は不可逆で、戻ることも繰り返すこともありません。なぜなら、地質現象はすべて熱力学の第2法則(エントロピー増加)に従っているためです。地質現象は、同じことの繰り返しに見えても、全く同じものはなく、どこか異なっていることになります。少なくとも熱力学的はエントロピーが増加しています。
 エントロピーも複雑な概念です。「乱雑さ」ともいわれますが、いったん乱れたものを、整った元の状態に戻すには、エネルギーが必要になります。このような戻すのにエネルギーが必要な変化は、不可逆となります。もし可逆ならば、エネルギーの増減がないことになり、平衡状態が継続していることになります。それは、変化していない、なにも起こっていないことになります。
 原子や素粒子など微小の世界でまで考えると、変化が常に起こっています。微視的にみると、エントロピーが増加し続けていることになります。熱力学的には、時間とともにエントロピーが増加していることになり、エントロピー増加から、時間が一方向にしか流れないことも導き出せます。これを「時間の矢」と呼んでいます。
 地層は、過去のある時間の記録媒体とみなせます。不可逆な時間の流れで、連続した地層も、実は不連続で不完全なものになります。これも少々説明が必要でしょう。
 タービダイトと呼ばれる地層は付加体では典型的な地層です。日本列島の地層の多くはタービダイト層です。河川の大洪水や海底地すべりなどが起こり、大量の堆積物が、大陸棚に流れ下り、やがて堆積していき、一枚のタービダイト層ができています。堆積にかかる時間は、数時間、極細粒ものでも数日程度で終わります。それ以降、堆積物はほとんどたまりません。
 再度、似たある海底地すべりが起こった時、次の地層がたまります。このようなタービダイト層は付加体の重要な構成物です。地層とは、時間の流れ見ると、ある時点に一気に溜まったもので、その時期以外は記録が残されていません。大半の時間は、地層の境界の物質の欠落したところに折りたたまれています。
 それでも、過去の地球を、直接探れる素材は、地層しかないのです。地層の時間記録は、もともと不完全であるところに、さらに地質学的過程で、多様に破壊されていきます。地下深部だと、変成作用を受け、時には一部が融けてマグマになってしまうこともあります。大地の運動によって断層や破砕が起こります。表層付近では、風化や侵食、変質なども起こります。地層は古くなるほど、このような地質学的改変も、さまざまな程度で、繰り返し加わっていきます。
 地層は、不完全な時間記録媒体で破壊も起こっているのですが、もしその改変の時期や順番がわかれば、それも重要な記録となります。幸い地層の時間は、化石や放射性核種の年代測定で知ることができます。地層を用いれば、時間軸上に過去の出来事が起こった順番に並んでいます。改変も、定量的に読み取れるものは限られていますが、順番は読み取れます。
 各種の地質学的過程が、時間軸上に、断片的で定性的ですが、並べることができます。このよな記録をたくさん集めれば、パタパタ漫画ように、連続して動いているかのように見えます。これが、その地域の地層の歴史となっていきます。各地の歴史をいろいろな時代で、地球全体で集めていけば、地球の歴史となっていきます。
 少々、壮大で荒唐無稽のような話をしてしまいました。島弧固有の地層や火成岩の野外調査を進めることで、断片的な時間記録から、どのようなことが見えてくるのか、哲学的思索を進めていこうと考えています。このような時間記録の解析や考察は地質学固有の思索です。他にも地質学固有の概念もあるはずです。そのような概念を抽象しながら、思索を深めていこうと考えています。
 いろいろ書いてきましたが、なにより静穏な時間、沈思黙考できる心の余裕がえられることが重要だと考えています。

・予約配信・
このエッセイは
ちょうど移動にあたっているでの、
事前に書いて、予約配信をしています。
配信を時間指定できるのは助かります。
今ではどこでもインターネットに
繋がるようになりました。
文書を書いて配信するなど
私にはできそうもありません。
予約配信できるのは助かります。

・謙虚に虚心で・
いよいよ西予での新生活ははじまります。
家内には新生活ですが、
私には2回目の生活となります。
2回目の強みは、勝手を知っていることでしょう。
しかし、なまじ昔のことを知っているために、
比べてしまい、良くなったことはいいのですが
悪くなっていることを挙げつらわないか心配です。
謙虚に虚心で生活をはじめましょう。