2017年12月1日金曜日

191 硬さと柔らかさ、強さと弱さ:石とロボット

 常識はずれのものがあると、最初は驚いたり、不思議に思ったりします。やがて無視したり、それは例外だと忘れてしまうでしょう。しかし、例外を真摯に見つめることで、新たな発見があるかもしれません。

 石は硬いものです。では、石なのに、ぐにゃぐにゃ曲がるようなものがあったとすると、それは意表をつく、信じられないものとなるはずで。実際に、コンニャクのように柔らかい石があります。名前もそのままに、「こんにゃく石」と呼ばれています。英名はイタコルマイト(Itacolumite)と呼ばれています。
 イタコルマイトは、ミナスジェライス州オルト・プレート地区にある「イタコロミ(Itacolumi)山」で見つかったことから付けらたものです。岩石としては、砂質片岩と呼ばれるものですが、石英と雲母が多い片岩で、片理の発達しているものが、よりよく曲がります。曲がりやすいという特徴があるので、撓曲(とうきょく)石英片岩とも呼ばれています。産地では、このこんにゃく石が重要な資源として採掘しています。地域の建築資材として利用されています。
 私たちは、石は固いものという常識、先入観を持っています。しかし、このようなこんにゃく石の仕組みを解明して、それを技術として応用できれば、人類にとって、役に立つ素材になることもあるでしょう。
 岩石は、金属元素と非金属元素が強く結合した鉱物からでてきます。ですから、工業素材の分類でいえば、セラミックの一種といえます。セラミックは、金属と高分子と並ぶ、三大材料の一つになります。元素の組み合わせが、いろいろとできるので、多様な素材が開発されています。例ば、古くは陶磁器、れんが、タイル、セメント、ガラスから、現在では電子用、切削用、研磨用、生体用の素材、あるいは合成宝石など、いろいろなものが利用されています。
 セラミックには、熱に強く、硬いという特徴があります。しかし、その特徴は裏返すと、もろさと、加工のしにくさという欠点にもなります。自然界のセラミックである岩石でも、こんにゃく石のような撓曲性を持っているものがありました。硬くて丈夫なセラミックに、このような撓曲性を持たせられれば、新しい素材になるのではと考えられます。
 名古屋工業大学太田敏孝先生は、そのような考えて新素材を開発しています。こんにゃく石は、風化により粒同士を接着する鉱物が溶出し、主成分である石英(二酸化ケイ素、SiO2)の小さな粒が残っている状態であります。石英大きさは数百μmで、約10%が隙間となっているため、ぐにゃぐにゃと曲がると考えられています。この構造をセラミックにするために、熱膨張率の大きい鉱物と小さいものを組み合わせて焼き固め(焼結)、こんにゃく石のような隙間をつくり出すことができ、曲がるセラミックスができました。
 例外、意表をつくものを知ることにより、新しい素材、ものづくりへとつながりました。
 意表をつくものとして、もうひとつ紹介したいのは、「弱いロボット」です。豊橋技術科学大学の岡田美智男先生たちの研究室では、弱いロボットが開発されています。先生たちが製作したいろいろなロボットが動画で紹介されています。それらのロボットの素振りや動作は、どこか面白くて、何故か心を動かされます。
 例えば、ゴミを見つけて近寄るですが、人に近づいて頭を下げるだけの「ゴミ箱ロボット」があります。人がゴミを拾って頭のゴミ箱に入れると、お辞儀をするだけです。でもその振る舞いが何故か人の心を誘います。おどおどしてティッシュを配りたいのだけれでなかなか渡せない「iBones」ロボットには、ついついティッシュを貰いに行きたくなります。ただ手をつないであるだけの「マコのて」のロボットだが、思い通りには動かないのだが、しばらく手を繋いでいるとなんとかく歩き方がわかってくきます。四角い立方体の「トウフ」は、声をかけるとはっきりしないが、なんとなくモゴモゴと返事を返してくれます。「ペラット」と呼ばれるロボットは、ふらふらとした動きで近づいてくるのですが、なにもしません。大きなひとつの目玉の「muu」というロボットは、幼児のようにたどたどしく話すが、聞きづらい発音ですが、近づいて聞きたくなるような様子があります。
 他にも、いろいろと人の心をくすぐるロボットが紹介されています。なかなか面白いものです。これらのロボットに共通することは、生産的なことをしないことです。「ゴミ箱ロボット」なら、ゴミを拾うロボットにしたほうが、効率的です。でも弱いロボットは、生産性がないので、なぜ心を動かされます。もしかすると、そこには人の心の琴線に関する、何らかの答えがあるのかもしれません。
 そもそもロボットというものは、人を助けたり、人以上に飽きることなくルーティンを正確に永遠と継続してくれます。AIは、人が知っていることはもちろん、まだ人が知り得ない答えを見つけることができるようになってきました。これらのロボットは、行動や思考の「強さ」を生み出してます。生産性、効率に特化して、心を動かすことはありません。一方、弱いロボットは、なにもしないのですが、人の心を動かします。心の謎を、弱いロボットから発見ですことができるかもしれません。
 日常生活する上で、常識は必要で、多量の情報処理や細かい判断を省くことができます。日常生活でルーティン的なことは、ほとんど意識することなくこなしていくには、常識は必要になります。しかし、自然界にさえでも、こんにゃく石のように意表をつくものや予想外のことがありました。稀なことでしょうが、それを調べることとで、新しいものづくりへとつながりました。例外的なものを調べることで、本質を理解する役に立つことがあったのです。
 人が生み出した弱いロボットから、今までの効率や生産性、解や答えなどとは違った方向性として、心を感じさせる研究が期待されます。まだ、答えはでていませんが、研究者は心を探る新しい手段を手にしたようです。非常識、意表をつくもの、例外を捨て置くのではなく、例外をよく知ることで、新しい何かを見つけようとする気持ちが重要なのかもしれませんね。

・人の心を誘う・
弱いロボットに興味ある人は、
研究室のインタビュー記事とロボットの動画を
https://article.researchmap.jp/tsunagaru/2015/10/
でみることができます。
不思議なロボットたちが他にもいろいろあります。
実用性はないのですが、
どこか人の心を誘います。

・忙しいとはいうな・
今年も最後の月となります。
今年は例年以上に忙しい年となりました。
ということを、毎年、年末に
いっているような気がします。
でも、来年以降数年間は
ますます忙しくなりそうな予感があります。
まあ、来年ことをいうのはやめにしましょう。
今を精一杯、できるこをできる範囲で
進めていくしかないでしょう。