明けましておめでとうございます。今年は、自身にとって区切りの年になります。このエッセイでは、今後の研究の方向性について考えています。自然科学的アプローチだけでなく、人文知からの思索を深めていくつもりです。
昨年は、1年かけて退職のための準備をいろいろと進めてきました。まずは、研究の集大成を著書としてまとめることができました。研究を進めていくうちに、終わりはまだまだということを痛感しました。これからも研究を進めていき、成果を論文として投稿していこうと考えています。
ただし、方向や方法論は大きく変更していくつもりです。より思索を深めていこうと考えています。思索と入っても、軸足は地質学に置いています。
現在、もっとも興味をもっているのは、地球のはじまりの時代「冥王代」(もっとも古い地質時代)です。地質学は、過去に起こった事象を、現在に残された証拠(地層や岩石、化石など)から、その実体を探っていきます。証拠は古いほど変質、変形、変成、破壊などを受けて変容していることが多くなり、不完全な証拠になったり、喪失していきます。時代を遡るほど、証拠は少なくなり、冥王代には証拠すらありません。それでも、地質学者は冥王代を探っていきます。
冥王代であっても、地質学以外の研究分野からのアプローチが可能です。例えば、地球の形成モデル(計算実験、シミュレーション)や、他の太陽系(系外惑星)との比較や(天文学)、太陽系の他の惑星の観測や比較(比較惑星学)、始原的隕石と呼ばれる材料(隕石学)などを手がかりにして、地球形成のシナリオを作っていくことができます。そんなシナリオから、冥王代の様子を、おぼろげながらも捉えていきます。
冥王代のシナリオからいくつかの事変が推定され、そこから地質学的束縛条件が抽出されてきます。例えば、地球の材料が特定の隕石(Eコンドライト)であるとわかってきたました。その後、大きな天体の衝突(ジャイアント・インパクトと呼ばれています)によって月ができました。さらに、月には隕石が激しく衝突した時期(後期重爆撃期と呼ばれています)があり、それらの小天体は小惑星帯や木星軌道付近から来たことがわかってきました。
このような事変から、いくつかの重要な地質学的束縛条件が出てきました。材料から、地球ができたときは、形成時の地球には大気も海洋も存在しない「裸でドライ」であったこと、できたての地球ではマントルは熱く対流も激しかったのですが、表面は分厚く硬いプレートが覆い、プレートの移動がない静穏な状態が想定されます。
また、月が形成されるような衝突は地球にも大きな改変が起こったはずです。地球も月も、原始の地球の衝突天体の物質の、混合比率が異なった物質からできました。リセットされた地球として新たな歴史がはじまります。
後期重爆撃期の激しく隕石の衝突で、無水時代のプレートが破壊されていきます。衝突天体は、太陽系の外側にあったものなので、揮発成分(水やガス)が含まれていました。その成分が地球の大気と海洋の起源となりました。厚いプレートが破壊され、大気と海洋ができると、現在のプレートテクトニクスがはじまります。ただし、大陸はまだできていません。なぜなら、大陸地殻は現在のプレートテクトニクスの沈み込み帯で形成されるからです。
広い海洋の中に、海洋プレートが沈み込んで、海洋列島(海洋性島弧と呼ばれています)が、あちこちにできたはずです。当時マントルの対流のシミュレーションがから、現在より多くのプレートに分かれていたため、海洋性島弧が多数できていたと推定されます。海洋性島弧が、大陸形成のスタートだったはずです。
このようは地質学的束縛条件が加わったシナリオができます。それを証明するための材料は、冥王代の地球からはほとんど見つかりません。証拠の欠如した時代の出来事を、科学的に探ることは困難です。証拠による検証という通常の科学的、地質学的手法(演繹法)が使えないためです。どうすればいいのでしょうか。
証拠が手に入らない、科学的検証ができないと、諦めてしまうことはできません。なんとか、知恵を使ってアプローチできないでしょうか。地球形成を地質学以外の学問を応用しました。自然科学が行き詰まったのなら、人文知が役に立つのではないでしょうか。人文知には、実体のない概念を深く思索していくこともされています。証拠のない、知りえない時代への手がかりが、そんな中にあるのではないでしょうか。
注目しているは、南方熊楠(みなかた くまくす)の思想です。熊楠の思想については、土宜法龍(とき ほうりゅう)との書翰のやり取りで展開されています。長い手紙を何度もやりとりしながら、熊楠も少しずつ思索を深めていきました。
熊楠の思想については、このエッセイでも何度か取り上げたことがありましたが、熊楠の偉大なところは、複雑な人文知の探査方法や概念を、文章や図で示している点です。それも一流の仏教者である法龍に説明するという方法で進めています。その方法論は、わかりやすいところも、難しいところもあります。概要をわかったつもりですが、まだまだ理解は浅く感じています。再度、読み直し、調べていき、深い理解をえようと考えています。
熊楠の重要な文献や書籍をある程度は集めているのですが、読み込むことができず、思索を深め、整理していくことができていません。いくつかの文献は読みましたが、まだまだです。新たに展開となる研究もいくつか出てきたので、それらも把握しなければなりません。
4月以降は時間ができるので、新たに文献を渉猟しながら、読み込んでいこうと考えています。熊楠は、在野の博覧強記の賢人であったのですが、世渡りは必ずしもうまくなかったようでが、膨大な文章や書翰、日記などから、その思索や造詣の深さがわかります。そんな熊楠に接するのが春からの楽しみです。
・すべきことは順番に・
退職までにすべきことが、
公私ともどもいろいろあります。
先日To Do Listを整理したら、
締切付きのものが、
多数リストアップされてきました。
まずは、締切を優先して進めていきます。
仕事始めまでに、推敲中の論文と
戻ってきている初校を
仕上げていかなければなりません。
これから3ヶ月、すべきことが押し寄せてきます。
自分を見失わないようしていきたいですね。
・熊楠の暮らしたところへ・
時間ができたら、和歌山にでかけたいと考えています。
熊楠の暮らした田辺や那智を
ゆっくりと巡りたいと考えています。
南方熊楠顕彰館や那智へは
以前にも何度か訪れています。
しばらく訪ねていないうちに
博物館も更新されているようです。
白浜の南方熊楠記念館にはでかけたのですが
休館で入れませんでした。
縁の地をゆっくりと訪ねていきたいと思いますが
それはいつになるのでしょうか。