2009年6月1日月曜日

89 2が8を制する:冪乗則

 全体の2割を制すれば、全体の8割を制することがあります。サッカーの司令塔やエースストライカー、野球のエースピッチャーや強打者などが、試合の趨勢を支配することもその例でしょう。このようなことは、多くの人が漠然と感じています。誰もが漠然と感じていることを、視覚化、あるいは定量化することは重要です。2が8を制するというのは、冪乗則というものが隠されています。

 アメリカの名門証券会社で投資銀行のリーマン・ブラザーズが、2008年9月15日に事実上破綻したことで、世界中に経済的衝撃を与えました。リーマン・ショックと呼ばれているものです。それ以来、現在にいたるまで、世間では「100年に一度」の不況と騒がれて、世界各国、日本でも巨額予算による景気対策がとられています。
 何を基準に「100年に一度」といってしているのでしょうか。多分、1929年10月24日の「暗黒の木曜日」と呼ばれる「世界大恐慌」に匹敵するものなので、比喩として「100年に一度」と呼ぶのでしょう。今回の不況は、まだ進行中であるため数値化されていないので、「100年に一度」の規模かどうかは不明です。もし「世界大恐慌」に相当するとしても、本当に「100年に一度」なのでしょうか。たった2つの例だけからいっているのなら、あまりにも不用意すぎる気がします。
 残念ながら私は、経済学に詳しくないので、この「100年に一度」が正しいことかどうかは、判断できません。それでも、今回は経済学の話からはじめます。
 人間の歴史は、似たようなことがあったとしても、時代が違えば条件が変わり、全く同じものは再現しないものです。経済に不案内だとしても、単純な比較は難しいことは予想できます。ところが、今回の経済不況だけでなく、「100年に一度」のような歴史を引き合いに出す表現は、よく使われます。これを単に比喩として捕らえるのか、数字は正確ではないが、だいたいの桁数は合った話と捕らえるのかで、事情は違ってきます。
 歴史上の経済現象をみても、たとえ条件が違っていても、似たようなものが出来事が、似たような規模で起こるとことはあります。大恐慌のような規模の大きなものは稀ですが、バブル崩壊のような規模の不況の頻度は多くなります。このような景気の変動は周期的に起こり、小さい不況はしょっちゅう起こっています。景気の周期性は、経験的に合っているように感じます。
 より一般化して歴史全般を見ると、周期性や規則性がありそうに見えても、経済よりは不規則でしょうし、条件の変動も大きいため、規則性を見出すことは困難でしょう。歴史の中で、経済に規則性が見出せれば、株や相場は予測可能になりそうですが、こんなに学問が進んでも、なかなか難しいようです。ところが、経済学のデータを結果として眺めると、そこに法則化できそうな規則性が、どうもあるようです。
 全体の2割程度の高額所得者が社会全体の所得の約8割を占める、という法則があります。イタリアの経済学者であるパレート(Vilfredo Federico Damaso Pareto)が発見したもので、パレートの法則と呼ばれています。高額所得者は少ないけれど、金額が多いため、社会全体の所得の多くを占めるというものです。大規模な不況の頻度は少ないがその被害は大規模である、ということに通じるものがあります。
 パレートは、統計的に所得配分の研究をして、経済・社会体制が違っても、違う時代でも、ある一定以上の所得を持つ人の数は、所得金額は指数関数で表現できることを示しました。その分かりいい例として、8:2という値が示され、経験にあうので、普及しました。
 パレードの法則を、別のいい方をすると、ある物事で一部が全体の主要部分を占めてしまう、という関係になります。このようなことは、経験的に思い当たることが多々あります。
 たとえば、サッカーやバスケットなどのチームプレイにおいても、一人か二人のエースと呼ばれるキープレイヤーが完全にマークされ押さえられると、チームとして機能しなくなることがあります。野球でも、エースピッチャーや主力打者が、試合を決定づけることがあります。その他のメンバーは多数いるのですが、多数より少数の影響力が強いことがあるのです。少数の人が体勢を決めてしまうというのです。
 一部の主力商品がその企業の大部分の収入を担っていたり(パレート原則)、文章で使われる単語の大部分は頻出単語である(ジップの法則)、なども同じような関係といえます。
 ハウツー本などでも、似たことが述べられています。あることを習得しようとすると、すべてを学ぶのは大変だが、重要な部分の2割程度なら学びやすく、それで実用の8割程度がまかなえるということが書かれています。だから、重点部分を集中的に学びなさいというものです。
 全体の2割が本質の8割を占めているということから、80:20や8:2の法則などともいわれています。8:2という比率でなくても、一部が全体を代表するようことが、経験的にも認められます。
 さて、大きな出来事の頻度が少ないというのと、パレートの法則あるいは8:2の法則は、一見、無関係のように見えますが、実は冪乗則と呼ばれるものの別表現ともいえます。
 冪は「べき」と読みます。もともとは、おおいかぶせるという意味です。隠れて外から見えないことから、小さな数へと転用され、ルート(根(こん)とも呼ばれています)を意味する述語になりました。ルートのことを冪根(ベキコン)とも呼びますが、一種の同義反復の語となっています。
 数学では、冪乗といういい方があります。これは同じ数をかけるという意味で、累乗ともいいます。冪乗や累乗は、「2の3乗」のように表現されるものです。2の部分を基数といい、3の部分を指数といいます。
 累乗則という言い方もあるのですが、冪乗則といういいかたの方が、よく聞きますので、ここでも冪乗則を使うことにします。
 冪乗則は、正確には数式で表現されるものですが、少々ややこしくなりますので、分かりやすく説明しましょう。
 指数の値を普通の数のように演算できるように変換(対数といいます)したものを使い、グラフにすると冪乗則の判定ができます。縦軸も横軸も対数を目盛りにしたもの(両対数グラフといいます)を使い、データをプロットしていくと。データが直線の関係になるもの(線形といいます)を、冪乗の関係があるといいます。このような冪乗関係を冪乗則と呼びます。
 冪乗則は、ある出来事や現象において、ものごとが平均的にまんべくなく起こるのではなく、ばらつきや偏りがあり、一部分が全体の大半を占めることがあるということです。その偏り具合が指数の関係になっているということです。
 指数で示される関係は、物理法則でも見つかり、法則化されています。重力は、距離の2乗に反比例します。静電気力(クーロン力)も、距離の2乗に反比例します。放射性核種の崩壊は、時間の指数関数となります。数学の分野でも、円の面積、球の体積、球の表面積では、半径との関係が、それぞれ2乗、3乗、2乗となります。このような指数の関係が、冪乗則となります。
 一見、規則性が生じようがないような自然現象にも、冪乗則が見つかっています。
 地震の大きさと発生頻度についても、冪乗則があることが見出されています。地震の大きさ(マグニチュード、Mで示します)と起こる頻度の関係は、小さいものは頻度が多く起こり、大きいものは稀にしか起きないことは、多く人が経験的に知っています。
 Mが1大きくなると頻度は10分の1になっていました。日本の例でいうと、M6(M6.0から6.9)は1年に10数回程度起こり、M7(M7.0から7.9)は1年に1、2回になります。M8は、10年に1回程度となります。小さい方でも、正確に観測できるM4までは、この冪乗則が成り立っています。長期間のデータをとって、関係を調べると、冪乗則が見えてきました。このような関係は、グーテンベルグ・リヒター則と呼ばれています。
 雪崩の頻度とその規模にも冪乗則が認められます。砂を落としていって砂山をつくり、崩れるときの規模と頻度をみていくと、やはり冪乗則になることが分かりました。不確定要素が支配しているような現象、偶発的な出来事にも、冪乗則は隠れていました。
 生物の分野でも、体重と代謝量、骨格とその強度、寿命と心拍数などなど、いろいろレベルで冪乗則が見つかっています。これらの冪乗則を、生物学ではスケーリング法則と呼んでいます。生物は、どうも冪乗則に則ってデザインさているようです。
 今まで紹介したような科学的に見出された冪乗則だけでなく、数学的、科学的には証明されていないが経験的にそうなるというものもあります。単にそう見える程度のものもあります。まだわからないだけで、そこには冪乗則が隠されているのかもしれませんが。
 ブキャナンは、「歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか」(ISBN978-4-152085283)という本で、自然や歴史において冪乗則が、大きな役割を果たしていることを指摘しました。
 多くの物事には、冪乗則が隠れていそうです。もしかしたら、この世は、2が8を制している世界なのかもしれませんね。

・実習指導・
教育実習中の学生に指導のために小学校を回っています。
地域によっては、多数の実習生を受け入れていることもあります。
一方、実習生をほとんど受け入れないところもあります。
今回、実習生を初めて受け入れた小学校を2箇所回りました。
先生たちは、熱心に実習生に取り組まれています。
学校を挙げて取り組まれています。
頭が下がる思いです。
なんといっても実習生が大変だけれども
いい経験をしています。
学生をみると、短期間ですが、
一回りたくましく、熱意にあふれてた目になった気がします。
若者は、いい環境、刺激があれば成長します。
そんな現場を見せ付けれるのは、いいものです。
一方で、教師として、人間として
こちらも身の引き締まる思いがします。
私もがんばらねばと、指導された気がします。

・運動会シーズン・
いよいよ6月です。
北海道も、春から初夏へと季節は巡ります。
小学校では運動会のシーズンとなります。
我が家の子どもたちの小学校も、6月中ごろに運動会です。
今年は、長男が小学校最後の運動会なので、
母を古里から呼びました。
残念ながら私は講義がある日なので、
運動会には参加できません。
もし雨で一日延期になれば、
参加できるのですが。
しかし、運動会で雨を望んではいけませんね。
関係者が苦労しますから。