2017年3月1日水曜日

182 歩くことと考えること

 初学者が、野外調査でどのように調査の能力を身についけていくのか。地質学では、歩くことが必須となります。研究目的を達成するため山野を歩きます。目的が腑に落ちて、調査に没頭できるのは、どのような状態でしょうか。

 初学者が。、野外調査を通じて、研究をはじめる場合を考えましょう。地質学の初学者にしましょう。基礎的な知識を持ち、野外調査のやり方も実習などである程度身につけています。研究目的は指導者から事前に与えられており、関連する専門的文献も読んでいるとしましょう。
 知識も技術も一応は身についているはずなので、野外調査はスタートできます。ただし、長期間、ひとりで野外調査するのははじめてです。ですから、たとえ意欲はあっても、かなりの不安があるはずです。
 自分一人での調査となると、今までの実習とは全く違うことがわかり、戸惑いも起こり、肉体的にも精神的にも疲労します。歩きはじめは、体が馴れていないので体力的にきつく、雨で休める日があるとホッとします。雨は調査が遅れるので、雨の日は歓迎すべきでないはずです。
 また初めての地域では、実習の時とは地質も岩石の種類も変わるので、記載の仕方、データのとり方、試料の採取の仕方など、すべて自分なりのやり方や基準を決めていかなくてはなりません。精神的にも疲れます。
 調査の仕方も、もがくような試行錯誤をしながら、自分なりのやり方を決めながら、だんだん石を見る目も熟練してきます。データや採取した試料も増えてくると、研究目的(例えば、オフィライトの起源を地質調査と岩石記載から明らかにする)にどう結びついていくのかが、少しわかってきます。さらに歩いていくと、体も慣れてきて、体力的な不安がなくなってきて、楽しくなってきます。
 やがて、研究目的に沿って、記載の仕方もよりよいものへと変わっていくことになるでしょう。多分、初期に歩いたところや重要なところを、再度見直す必要があります。研究目的が腑に落ちてくると、野外調査のスキルもついてきたことを実感できます。卒業論文の調査は、まずは歩いて、それから考えていました。
 ここまでの話しは、私がはじめて卒業論文で日高山脈で野外調査にでたときの経験です。あっさりと書きましたが、私がこのように歩くことに楽しみを覚えるまで、ひとシーズン(3ヶ月ほど)を要しました。調査が楽しくなるころに、雪のためシーズンが終わりました。歩きたいと思っても、次のシーズンまで待たなければなりませんでした。
 卒業論文は4年生ですので、冬には卒業論文をまとめて、提出しなければなりません。卒業論文提出後、私は大学が変わり、指導教員も変わり、研究目的も変わりました。次シーズンは、全く別のところで野外調査をはじめました。「所変われば品変わる」で、すぐには石を見る目ができず、苦労しました。もちろん、昨シーズンの経験は、次なる調査地で活かされていました。早い段階で、調査に専念できました。卒業論文のときの調査は、野外調査の方法自体を身につけるということもありました。その結果、時間をかけた割には、調査の内容も目的の深め方にも不足や不満を感じていました。
 修士論文は、岡山県のある地域だったので、1年に春と秋の2シーズンの調査ができました。ただし1年目の春は、調査地を決めるために、指導の先生と各地を歩き周りました。ですから、野外調査は、修士課程1年目の秋、2年目の春の2シーズン(3シーズン目の秋は少しだけ歩く)を集中的に歩きました。
 この地域での新たな研究目的(オフィオライトの起源を調べる)のために、岩石や鉱物の化学分析という手段を利用することにしていました。適切な試料を採取しながら野外調査を進めていきます。もちろんはじめての地域なので、地質学の基本的な調査もおこないます。修士論文の調査は、新しい調査地でしたが、我ながらよく歩いたと思います。まさに野外調査に没頭していました。修士論文の調査は、手段も目的もはっきりと定まっていたので、その目的にあったものを探しながら歩いて考えていました。
 博士論文の目的としては、修士論文の地域を基準にして、中国地方から近畿地方まで、類似の岩石がでているところを、広域に比較対象することにしました。野外調査の拡大して車やテントで寝泊まりしながら、4シーズンほど調査しました。もう3年も野外調査をしているので、要領を得ています。あらかじめ定めたひとつ地域で、目的に必要なルートで露頭を見つめては集中的に調査しました。そして、効率的に必要なデータや試料を集めることができるようになっていました。博士論文の調査は目的を達成することが優先されました。しかし、長期間、野外で調査していると、楽しく没頭できました。博士論文ではまずは、考えてから、効率的に歩くことにしていました。
 卒業論文、修士論文、博士論文と野外調査のスキルは上がってきています。研究の成果も、この順に上がってきています。いずれも野外調査は大変ですが、楽しさもありました。しかし、研究目的を理解するために、もがきながらひたすら歩いていた時、アセリもありましたが、はじめての野外調査のせいかもしれませんが、達成感が一番あったような気がします。
 このような達成感は、野外調査や研究だけでないはずです。体を動かし、手を使い、深く考え、納得し、腑に落ちで、肉体的にも精神的にも苦労したものほど、達成感が大きいものでしょう。

・3月は・
北海道は、暖かい日があるかと思ったら、
翌日は積雪という繰り返しがはじまりました。
今年は温度の変動が大きいように感じます。
いよいよ3月です。
大学は後期の入試と卒業や進学の判定、
また、新学期に向けての準備となります。
慌ただしい時期となります。
卒業生は社会に対して、
新入生は大学に対して希望と不安を抱えて、
新天地に向かいます
健闘を祈ります。

・たゆまぬ努力・
2月から3月上旬にかけて、
研究を進めたいと、時間と努力をかけてきました。
内容が多いため、手こずっています。
かといって、手を抜いていらたますます滞ります。
ただひたすら時間をかけて、手間をかけて
着実に進めていく必要があります。
たゆまぬ努力のみが解決手段です。
大変ですが、エッセイでも述べましたが、
「苦労したものほど、達成感が大きい」
はずです。