2017年6月1日木曜日

185 ディープラーニングは君のスピードで

 コンピュータの進歩は、とどまることを知りません。その進歩にはいくつかブレークスルーがありました。ディープラーニングはその一つになります。でもそのスピードは、立ち止まって考える必要がありそうです。

 コンピュータの性能の向上により、今までできなかったことが、コンピュータによって楽にできるようになりました。さらに、人にもともとある能力の記憶力、計算力、検索力などは、コンピュータが圧倒的に凌駕してしまいました。思考力や想像力など、人固有の能力と思われてきたものも、コンピュータが越えていくかもしれません。
 実は人固有の能力とは、今まではアルゴリズムやプログラムにすることができないため、コンピュータに行わせることができなかっただけではないでしょうか。そこを突破するために、AIやディープラーニングなど手法が開発されてきました。
 AI(artificial intelligence)は人工知能のことで、コンピュータが人と同じような知能を持てるようにする技術です。昔からSFでは「2001年宇宙の旅」のHALなどで、人を越えるほどの能力をもったコンピュータがありました。しかし、なかなか現実には出現してきませんでした。
 20世紀末にはSFではなく、現実化したことありました。チェスでのコンピュータとの対戦でした。当時、チェスのチャンピオンであるガルリ・カスパロフと、IBN社のチェス専用のコンピュータ(ディープ・ブルー)が対戦しました。1996年2月に3勝1敗2引き分けでカスパロフが勝っています。ところが1997年5月に再度対戦して、ディープ・ブルーで2勝敗3引き分けでカスパロフに勝っています。
 このときデープ・ブルーは、次の手を次々と考えていきよりより一手を見出すという手法で、コンピュータの得意とするやり方でした。これは、AIではなく、ひたすら計算していくというもので、コンピュータの性能が実力を示すことになります。いつかわわかりませんが、コンピュータが人を超える可能性は想像できます。でも、比較的ルールが簡単なチェスなので、実現できたのでしょう。
 ところが、碁や将棋はルールなかなか複雑で、次々と手を考えていく方法では可能性が多くなりすぎて、かなり困難でした。ところが、近年、AIのひとつとして、ディープラーニング(deep learning、日本語訳深層学習)という手法がでてきました。その結果コンピュータは、人の知能の迫ることになってきました。
 ディープラーニングとは、視覚的にものごとを捉えいく方法です。人が視覚情報をどう処理するのかということを研究から、入ってきたデータは脳内で別のところに転送されるうちに、各場所(層と呼ばれる)で学習がおこなわれ、データの「特徴量」が抽出されていきます。この特徴量を、今までは人が手動で設定していたものを、コンピュータにかってにおこなわせるようにしました。特徴量とは、データを特徴づける変数、ゲームの場合は有利になる局面などとなります。この特徴量をコンピュータが発見すれば、ゲームに有利に導く次の一手が考えられます。この特徴量を、過去の対戦をひたすら見せて「学習」あるいは「自習」することで、コンピュータ自身が勝つ方法を考えていくという手法です。
 ディープラーニングでは、過去の対戦を、コンピュータならではの超高速で休むことなく、ひたすら学習し続けることができます。データさえ提供をすれば、コンピュータ自身が勝手に強くなっていくのです。その上達スピードは驚異的なものです。
 Googleの子会社のGoogle DeepMind社が開発した「アルファ碁(AlphaGo)」は、ディープラーニングによって、囲碁を学習しました。そして2016年3月には、アルファ碁はチャンピオンのイ・セドルと対局し、4勝1敗した。このアルファ碁は、インターネット対局場で公開されました。すると、匿名で数人のトップレベルのプロ棋士とされる人たちが参加し、早碁(1手60秒未満でさす)では、アルファ碁が60戦全勝をしたそうだと話題になりました。日本でも、世界最強の囲碁AIを目指そうそうとする「DeepZenGo」ができ、現在力をつけているようで、人のトッププロのレベルに達しています。
 将棋の世界でも、もともとプロ棋士のトップレベルにいたponanzaというソフトがありました。2017年に「Chainer」というディープラーニングの仕組みを導入して「Ponanza Chainer」に進化しました。このソフトとの対戦は、今年行われるはずですが、多分以前よりかなり強くなっているでしょう。
 今まで人しか達しない複雑なゲームの世界に、まったく新しいディープラーニングという学習手法をもったコンピュータが導入されました。これは革命といえます。人しかできなかった思考や、熟練者がカンや無意識におこなわれていた技法が、コンピュータによってできるようになり、よりよいものへとなっていくかもしれません。
 いったんディープラーニングのような手法が見つかれれば、これはあらゆる場面での導入がはじまるはずです。もしかすると音楽や映像など感性に依存したものも、多くの人が共感できるもの(ヒット曲、売れる商品)などをも見つけてしまうことができ、人の出る幕がなくなるかもしれません。もちろんAIは、有効利用すれば、人にとって大きな恩恵をもたらすはずです。
 でも少し落ち着いて考えると、人の頭や心が追いつけない状況が、今、出現しはじめているのではないでしょうか。コンピュータの性能や機能がすごいスピードで進んだため、社会にコンピュータが広く普及して、多くの人が恩恵を受けました。しかし、今回の進歩は、能力や知性にかかわるものです。コンピュータの能力や知性があまりに早いスピードで進むと、人がついていけない状況が起こっていくるのではないでしょうか。もしかするとゲームの世界ですが、起こりつつあるように見えます。
 科学や技術の進歩が著しすぎることは、もしかすると人の感情や倫理、感情、知性などにおける危機が起こっているのでないでしょうか。ゲームの必勝法をコンピュータがすでに持っていると知ったら、人はそのゲームを面白いと思えるでしょうか。あるいは、そのゲームの世界にプロなどが存在できるのでしょうか。
 すべてのものごとに、白黒の決着ついている世界は、つまらないものになりそうです。思いもよらないこと、予想外、そこにはもっと別の世界が広がっている可能性を考えることもできなくなります。その世界には、福も災いも混在しているでしょう。紆余曲折、試行錯誤、いろいろあるから、人生が面白いのではないでしょうか。
 一方、科学の世界でも、研究者は業績や成果に追われ、科学の進歩のみを考え、その行く末を考える余裕がなくなってきています。そのためには、自分にあったスピードで歩き、考えることも必要でしょう。これ以上は人智を越えるからという理由で、開発や研究をストップするという選択も必要なのではないでしょうか。
 私たちの世代で、吉田拓郎はカリスマでした。彼の音楽からは、多大な影響を受けました。吉田拓郎の「君のスピードで」という歌があります。
  僕にはけしてないものを
  君が持っている
  生まれかわる事は
  出来ないから
  すべてをひとつにしなくていい
  君の好きなスピードで
  僕のテンポで
心にしみます。
 人の理性や倫理観が伴うスピードで、社会の進歩をコントロールして進めることも必要ではないでしょうか。

・人類の終焉・
BBCのインタビューに対して、
スティーブン・ホーキングは
「完全な人工知能を開発できたら、
それは人類の終焉を意味するかもしれない」
と答えたそうです。
私も、同感です。
人工知能の開発や思考領域をどこまでに設定するか
重要な課題だと思います。
いつまでもコンピュータにできない領域があるはず、
あるいは人がコントロールできる、
などという前提は、幻想かもしれません。

・ブレークスルー・
コンピュータの進歩には、いくつもの
ブレークスルー(breakthrough、飛躍)がありました。
真空管から半導体へ、半導体からICやLSIへ。
これらのブレークスルーによって
コンピュータの集積度と処理速度の飛躍的に向上しました。
おかげでだれもがコンピュータを身近に持って、
利用できる時代になりました。
ディープラーニングもブレークスルーのひとつです。
ビックデータもブレークスルーのきっかけなると思いますが
まだ十分活用できていません。
しかし、ビックデータとディープラーニングが合体すれば、
もしかすると、別の世界が生まれるかもしれません。
それは良い世界でしょうか、それとも、・・・・

・テーマを変更・
予定していた次回のテーマを変更しました。
申し訳ありませんでした。
そのうちにお送りします。