2024年3月1日金曜日

266 This View of Geology かくのごとき地質観

 ダーウィンが見た生物進化の壮大さと同じものを、地球創成にみます。そして進化に結実した生命観は、地球進化への地質観に相通じるものがあるように見えます。そんな壮大な物語をまとめています。


 現在、著書の執筆を進めています。毎年、この時期に執筆をしているので恒例の作業ともなっています。大学では講義がなく、時間的に余裕がある時期になっているからです。印刷出版費を、競争的研究費として申請をするためには、見積もりが必要になります。そのため、4月には初稿ができて、だいたいのページ数が必要になります。そして、今回の著書が、来年度末に退職となるため、最後のものになります。ライフワークの総まとめとなるので、力も入っています。
 博物館の学芸員時代に業務上はじめて、研究してきたテーマを当時まとめました。そして25年たったこの時期に、再度、研究テーマとして取り組むことになりました。その分野で大きな進展が、ここ数年に起こったため、興味が再燃しました。執筆中に幸いも、いろいろなアイディアが湧いてきて、この25年間に進めてきた、大きな研究テーマが、最後の著書として体系化できそうになってきました。
 これまで取り組んできた地層に記録されている時間、そして過去の時間への地質学的視座の特徴などから、「時間のらせん」というアイディアが湧いてきました。また、斉一説の適用限界に対して、「アブダクティブ斉一説」という発想が生まれました。これらについては、別のエッセイで、順次に紹介していこうと考えています。
 さて、本エッセイのタイトルは、スティーヴン・ジェイ・グールドにあやかっています。グールドは私にとっては、師とも仰いでいる地質学者であり、進化学者でもあり、なにより科学エッセイストとしても一流です。グールドを師と考えているのは、グールドの著書でも地質哲学的思索に大きな刺激を受けてるためです。
 グールドは、アメリカ自然史博物館の月刊誌Natturl Historyに「This View of Life」(かくのごとき生命観)というタイトルで連載したエッセイが有名でした。1974年1月からはじめ、25年にわたって、一度も休むことなく連載を続け、予定通り2001年1月で終了としました。すべてのエッセイは、全10冊の著書になり、邦訳されています。
 月刊エッセイの連載が25年とは長い期間です。博物館ではじめたテーマが今まとめ直している期間や、この職場に2002年に移籍してきてからの期間も、似たものとなっています。しかし、期間や数値は、どうでもいいことでしょう。重要なのはグールドの姿勢です。
 グールドのエッセイに込めた執筆姿勢に感銘を受けています。それぞれのエッセイの内容は、常に原典、一次資料に当たるという姿勢が貫かれていました。さらに、地質学の話題だけでなく、いずれも重厚にして、時に高尚にて、時に神話から古典へ、時に機知に満ち、時に好きな野球やクラッシクの洒脱さ、縦横無尽に、話題が飛び回っていきます。それでいて、その教養レベルは常に高いもので、読んでいても、知性がかきまぜられる思いがしました。
 グールドの連載エッセイのタイトルは、「This View of Life」です。これは、ダーウィンの「種の起源」に依っています。「種の起源」の最後の一文として"There is grandeur in this view of life"(かくのごとき生命観には壮大さがある)からとったものです。
 このエッセイのタイトルも僭越ながら"This View of Geology かくのごとき地質観"としたのは、グールドを引用したからです。
 そこでも、グールドの愛したダーウィンの「種の進化」の最後の文章を、自分なりに読むことにしました。幸い、インターネットに初版の文章が公開されています。引用して、約しておきましょう。

There is grandeur in this view of life, with its several powers, having been originally breathed into a few forms or into one; and that, whilst this planet has gone cycling on according to the fixed law of gravity, from so simple a beginning endless forms most beautiful and most wonderful have been, and are being, evolved.
(Darwin C., 1859, On the Origin of Species. https://www.gutenberg.org/files/1228/1228-h/1228-h.htm#chap14 2024.2.20閲覧)
かくのごとき生命観には壮大さがある。それは、いくつかのもしくは 1 つの形にもともと息づいていた力に、そしてこの惑星が重力の普遍の法則に従って巡っている間に、単純なものからはじまったら終わりなき形、最も美しく最も素晴らしいものへと進化してきて、そして進化し続けていることに。
(著者訳)

 ダーウィンは、惑星の運動という法則性をもった長い期間、単純なものから複雑なものへの進化が続けていること、そこには壮大な生命観があると「種の進化」ではまとめています。
 同じことが、地質学でもいえます。
 地球は、軌道上にあったEコンドライトと呼ばれる揮発性成分を含まない素材からできました。地球も最初は、石の固まりで、大気も海洋もない単純なものからスタートしました。その後、太陽系の惑星運動の変動により、小惑星帯やその外側にあった、揮発成分を含んだ炭素質コンドライトの軌道が乱され、地球や月に多数飛来し爆撃しました。その結果、地球に揮発成分が運ばれ、大気や海洋ができました。そして、生命の合成もはじまりました。
 「惑星の重量の普遍法則に従って」、単純なものから「最も美しく最も素晴らしいものへと」変化してきました。「かくのごとき地質観」は壮大だと思います。そんな地質観へ、少しの独創性を加えて眺めていこうと、著書では企てています。成功したかどうかは、後に評価されちえくでしょう。

【余談】
 グールドの渾身の遺作「進化理論の構造 The Structure of Evolution Theory」(上巻:808ページ、下巻:1120ページ)があります。しかし、まだ読んでいません。大著でもあるのですが、退職後の楽しみにとってあります。もうひとつの大著「個体発生と系統発生: 進化の観念史と発生学の最前線」(649ページ)もとってあります。次は、グールドのライバルであり、盟友でもあったドーキンスが控えています。

・執筆に専念・
3月になり、集中講義があり、ばたばたします。
その傍ら、著書2冊の執筆を継続しています。
当初予定より、かなり遅れています。
1月中旬から、投稿した論文で分割の指示があり、
3編に分けて、そのうち2編を投稿しました。
1編を独立した論文として完成しました。
それを書いている内に、このエッセイで述べた
新たなアイディアが湧いてきたので
それも論文にしました。
著書の執筆のスタートが、一月ほど遅くなりました。
それらの論文を改変し、新たな論文を書いたため
著書の内容も充実したものなりそうです。
この著書の執筆は、まだまだ時間かりそうですが、
ライフワークのまとめとなります。

・宴会・
大学では、通常の宴会が催されるようになってきました。
卒業祝賀会、教職員の送迎会、永年勤務者表彰
など、いろいろと続きました。
4月には歓迎会もあります。
やっと、コロナ禍以前に戻ってきました。
しかし、宴席での対話がなんとなく、
まだまだぎこちなく感じるのは
私だけでしょうか。