2024年4月1日月曜日

267 過去の因果と地質学

 地質学は、過去を探る学問です。岩石や地層などの実物を用いて検証された情報は、因果の記録ともいえます。検証された因果から構築された地球の歴史が、地質学の大きな特徴です。未来への使用には注意が必要です。


 時間は、過去から現在、そして未来へと流れていきます。過去から現在まで流れている時間は、すでに終わっているので、検証できる可能性があります。未来への時間は、多分、これからも継続的に流れていくでしょうが、これまで通りに流れるかどうかは、検証不能です。
 未来の検証不能性とは、単純にいえば、「未(いま)だ来(こ)ない」時間なので、検証対象にはできないためです。過去の検証可能性は、因果関係を前提としています。因果関係とは、何らかの事象に対して、ある原因で起こった結果との関係、もしくは結果を起こした原因との関係のことです。因果関係が成立していることが、検証の前提になっています。したがって、結果が起こっていない未来は、因果関係が成立していないので、検証できません。
 過去と未来の違いは、自然界に存在する実物、実在している事象、個物など、すべてに対して適用されます。自然界からえられたデータ、情報をもとに、すべての科学の体系が構築されていきますので、この束縛を受けています。過去から現在までの時間では、因果がすでに終わっているので、その関係は検証可能です。
 ただし、本当に検証できるかどうかは、証拠(情報)がえられるかどうか、その証拠の精度が十分かどうかによって変わってきます。
 地質学の素材は、過去に形成され、現在入手できる岩石や地層になります。地質学の素材は、すべて因果における結果となりますので、検証作業が適用できます。
 ある時代にできた岩石(マグマが固まってできた深成岩)があったとします。その深成岩が入手できれば、いろいろな観察や分析ができます。
 岩石をルーペや、光を通すほどに薄くして岩石専用の顕微鏡(偏光顕微鏡といいます)を用いれば、岩石を構成する鉱物や組織を観察できます。どのような鉱物からできているか、組織からどの鉱物がどの順番に結晶してきたのか、どのようなスピードで結晶化したのか、などを定性的に知ることができます。マグマが固化する過程、つまり「過去の現象」を、定性的ですが、復元することができます。
 岩石の成分には放射性元素も含まれています。放射性元素には半減期があり、適切は半減期の成分が分析できれば、岩石が形成された年代を決めることができます。マグマが固化した「過去のある時点」を定量的に決定できます。分析精度が高ければ、ひとつの鉱物内部の数マイクロの部分の年代を測定する技術が開発されています。その技術を利用すれば、古い深成岩で変成されて元とはかなり異なった変成組織になっていても、深成岩の鉱物が残されていれば、マグマから形成された年代を復元することが可能になりました。
 また、深成岩の岩石全体や個々の鉱物の化学組成から、マグマがどのような形成過程(どのような物理条件でできたか)、どのような固化過程(結晶化の過程)を経てきたのかを、かなり定量的に追いかけることも可能です。また、マグマがどのような材料(起源物質といいます)からできたのかも探ることもできます。
 過去の素材(深成岩)があれば、過去のある時点の何らかの因果関係(マグマの過去のさまざまな様子)について探ることができる、ということです。地質学は、過去の因果を探求していく学問でもあります。
 ここまでは、ある深成岩の例でしたが、このような作業を、いろいろな時代の深成岩で進めれば、マグマの時代ごとの多様性から、時代変化を知ることになります。いろいろな地域の深成岩でおこなえば、地域ごとの多様性から、地質場ごとの特徴を知ることできます。
 収集の方法やえられる情報は異なりますが、火山岩、堆積岩、変成岩に対して、それぞれに進めていけば、岩石の特徴ごとに、過去の地球の様子を、検証可能性をもって、実証的に知ることができます。これらを時間ごとに編纂して集大成していけば、地球史となります。
 さて、ここまで地質学の特徴である過去の因果を解明していく方向性でした。次に、一般の自然科学が目指す方向をみていきましょう。もし個々の地域や時代の深成岩から、地域性や時代の変化に左右されない、普遍的な特徴が抽象され、帰納できれば、それは普遍化された理論、一般論ができます。
 深成岩の研究から、マグマの形成過程、固化過程についての普遍的な成因論を読み取ることが可能かもしれません。同様に火山岩、堆積岩、変成岩などからも、一般論ができるはずです。地質学では、このような作業を繰り返しながら、鉱物形成論や化石形成論、あるいは火成作用、堆積作用、変成作用の一般論も構築してきました。
 このような普遍化の方向性は、物理学や化学では通常の科学的方法論となるでしょう。一般論があれば、いつでも、どこでも適用できるはずなので、未来へも、演繹していくことも考えられます。
 もし未来に、火山が活動すれば、もし断層が動けば、もし地震が起これば、なども、一般論を適用すればいいはずです。一般論はありますが、結果は検証されたものではありません。そうなると、最初に話をした未来の因果関係に抵触してしまいます。さらに、その予測精度が問題になります。
 物理学や化学では、一般論の予測精度は、一定の範囲に収まり、未来予測もある程度の誤差に収まるでしょう。予測精度がはっきりしていれば、活用していくべきでしょう。社会的影響、人への影響などが小さなものであれば、未来予測は自由にしていいでしょう。
 地質学や気象現象など、複雑な自然現象に関わるものは、一般論の予測精度はあまりありません。地球環境は複雑なので未来予想には、不確かさが常に伴っています。未来予測には、火山噴火、地震発生、長期の天気予報、気候変動など、人や社会へ影響の大きなものもあります。
 未来は因果関係の範疇を超えている上に、複雑で複合的な未来予測は、一般論においても不確かがあります。地質学は、過去を知るうえでは重要な学問ですが、未来への適用には注意が必要です。地質学以外にも総合科学には似た宿命をもったものもあります。未来への運用は慎重にすべきでしょう。これも未来の話になるので、予想は危険かもしれませんが。

・飛ぶ鳥あとを濁さず・
2024年4月になりました。
新学期、新生活などを迎える人も多いと思います。
その方たちは、これまでの生活に
一旦は区切りをつけてことになります。
さて2024年度は、区切りの年になります。
今年度で、退職となるので、
この1年でなすことすべてが
最後のものになります。
大変なことも、楽しみなこともあるでしょう。
この1年は、目立たぬように、波風を立てずに
静かに終わりを迎えたいと考えています。
しかし、与えられることは可能な限り
できる範囲で受けてこなしていきたいと思います。
飛ぶ鳥あとを濁さず、でもあります。

・fade out・
昨年度は半年間のサバティカルでした。
12年前の1年間のサバティカルがあり
それが開けた時の気持ちは、
I have a dream. でした。
内に秘めた夢と、
外に出すべき夢がありました。
それを実施することに
その後、10年間努力してきました。
昨年度のサバティカル開けの目標は
フェイドアウト(fade out)となりました。
穏やかに過ごしていこうと考えています。
精神的にも肉体的にもかなり老化がきています。
心身を宥めすかしながら、
老化に折り合いをつけながら
過ごしていくことにします。