前回は、帰納法と演繹法の特徴を見てきました。いずれも一長一短があり、完結したものではありませんでした。両者にはいろいろなバリエーションがあリます。少々長くなりますが、具体的な例から打開策を考えていきましょう。
自然科学では、帰納法を用いて法則や規則性を見出していきます。次に、その法則や規則性を利用した演繹法として、未知の結果を予測したり、実験されていない条件での検証をしていきます。自然科学では、一方だけで研究が終わることはなく、両者を一連の方法として利用していきます。その方法が、仮説演繹法(hypothetico-deductive method)です。
帰納法と演繹法には詳しく見ていくといくつかの多様性があります。それらを、例を示しながら見ていきましょう。
帰納法にはいくつに区分されています。自然科学ではもっとも一般的な「枚挙的帰納法」と呼ばれるものがあります。例を出しながら見ていきましょう。
玄武岩はマグマからできた火成岩である
安山岩はマグマからできた火成岩である
デイサイトはマグマからできた火成岩である
流紋岩はマグマからできた火成岩である
・・・・
と繰り返していきます。そこから、
【仮説】すべての岩石はマグマからできた火成岩である
という仮説をえます。
わかりやすい例ですが、すべての岩石には「砂岩」も含まれてます。そこから
砂岩はマグマからできた火成岩である
という個別的命題にすると、その【仮説】は偽となります。これは、枚挙的帰納法からえられた【仮説】(法則や規則性)への反例がでてきたことになります。そのとき、この【仮説】が否定されます。
他に、アナロジー(類推)というものもあります。アナロジーは、似た個別的命題を多数集めて、仮説を立てていく方法です。
砂岩は堆積岩である
礫岩と砂岩は似ている
【仮説】ゆえに、礫岩も堆積岩である
類似した例を多数列挙していくことで、堆積岩の多様性を把握しながら、【仮説】の適用範囲を把握していくことになります。
花崗岩は砂岩に似ていない
ゆえに、花崗岩は堆積岩ではない
というように、アナロジーからはずれるものも見つかってきます。適用範囲から外れるものと、コントラスト(対比)としていくことで、【仮説】の適用範囲を限定していくことになります。枚挙的帰納法よりはゆるい限定ですが、【仮説】の範囲を把握していくことになります。ただし、アナロジーを進めても、蓋然性を高めることしかできません。
いずれの帰納法においても、法則や規則性の正しさを証明するためには、適用範囲全体(自然界のすべてや世界中)を網羅的に調べていかなければなりません。自然界のものをすべてに対象になれば、網羅することは不可能です。そのため、帰納法で見出した法則や規則性は、論理的に証明不能となります。
すべての自然法則は、調べた範囲での確かさ、現状のみでの確かさしかありません。明日、反例が出てくれば、その法則は否定されます。
次に、演繹法のいくつかのバリエーションを例を示しながら見ていきましょう。もっとも一般的な演繹法として、三段論法があります。三段論法とは、
すべてのAはBである
すべてのBはCである
ゆえに、すべてのAはCである
となります。例を示せば、
すべての火成岩はマグマが固化したものである
すべてのマグマは既存の岩石が溶融したものである
ゆえに、すべての火成岩は既存の岩石が溶融したものである
となります。古くから使われている考え方で、だれもが納得できる考え方でもあります。
他の演繹法もあります。モーダス・トレンス(Modus tollens、間接証明や対偶による証明とも呼ばれます)とモーダス・ポネンス(modus ponens、前件肯定や分離規則とも呼ばれます)と呼ばれるものです。似た言葉ですが、論理構成上の違いがあります。
モーダス・トレンスは、
AならばBである
これはBではない
ゆえに、これはAではない
というものです。モーダス・ポネンスは、
AならばBである
これはAである
ゆえに、Bである
となります。例を出して示しましょう。
モーダス・トレンスでは、
火成岩ならばマグマからできている。
砂岩はマグマからできていない。
ゆえに、砂岩は火成岩ではない。
となります。これは、対偶と呼ばれ、背理法に通じるものです。
また、モーダス・ポネンスの例としては、
火成岩ならばマグマからできている
この石は火成岩である。
ゆえに、この石はマグマからできている。
となります。これは、対象が限定されて活用されていますが、三段論法と同じ構造となります。
いずれの演繹法も、仮説の検証は可能となりますが、新しいことを見出しているわけではありません。仮説の適用範囲の確認や検証に利用されています。
帰納法で仮説を導き、その仮説から予測して検証作業を進め、仮説の真偽を確かめていきます。反例がでるまでは、検証作用が続くほど、仮説の「確かさ」は増していきます。ただし、検証作業が枚挙的になるため、蓋然性は高まりますが、論理的な真へは到達できません。
帰納法も演繹法も不完全で、両者を組みわせて、自然科学は進められていきます。帰納法と演繹法を連結したものが、仮説演繹法となります。
地質学で用いられている「斉一説」も仮説演繹法の論理構造を持っています。斉一説は、現在の事象(個別的命題)から帰納された一般則(普遍的命題)が生まれます。それを過去の事象(個別的命題)へと演繹していきます。
しかし、現在の普遍的命題の過去への適用は、「時間の不可逆性」があるため、検証できません。これは、自然界における普遍的命題の抽象は、「現在」を前提としています。「過去」への演繹的適用は前提条件からは逸脱する使用法となっています。過去への斉一説の適用は、「逸脱したアナロジー」となります。
現状では、斉一説は、使用されています。斉一説的な地質現象が起こっている時代であれば、適用可能でしょう。反例がでてくるまで蓋然性を高めていくしかありません。しかし、斉一説的地質現象ではない時代、例えば冥王代には適用できないはずです。適用は誤用となります。
冥王代のような古い時代へ自然科学的方法論として、どのようなものを使えばいいのでしょうか。哲学者のパース(Charles Sanders Peirce 1839-1914)が再発見したアブダクション(abduction)が有効だと考えています。
アブダクションとは、もともと帰納法に一種で、ある個別的事象に対して、なんらかの仮説を立ててみたら説明できたとします。その仮説を、とりあえず適用して、次のステップに進んでいくことです。
事実Aがある
Bという仮説を立てるとAが説明できる
ゆえに、仮説Bは正しいと考えられる
例として、
A 島弧の安山岩と大陸地殻の花崗岩とは化学組成が似ている
B 島弧の安山岩マグマが大陸地殻をつくったとするとAが説明できる
ゆえに、Bは正しいと考えられる。
アブダクションの特徴は、必ずしも帰納法を前提としていない点です。作業仮説を生み出すきっかけとして、ひとつの事実Aがあればいいのです。ときには、Aすらなくても、思いつきであっても作業仮説が立てられれば、それに基づいて、仮説演繹法の作業に入っていけます。
アブダクションは、仮説演繹法を進めて、反例が出てきた時でも、その反例も受け入れて、新たな作業仮説を作ために用いることもできます。作業仮説自体が非常にゆるい前提が立てられているため、修正が容易にできます。アブダクションによる作業仮説の構築は、多くの研究者が意識的あるいは無意識に実施しています。
帰納法が使えない時は、アブダクションによる仮説を立てて、あとは仮説演繹法として使っていくことになります。地質学の斉一説は仮説演繹法なので、作業仮説として活用していくことはできるしょう。真理保存性はないのですが、反例がでてくるまでアブダクティブ斉一説で進めていけばいいはずです。ただし、適用限界を越えて使用していることを強く意識しておく必要があるでしょう。
こんなことを考えていますが、この論理は正しいのでしょうか。
・大変だが面白い・
このアブダクティブ斉一説は
現在もっとも集中して考えている概念です。
論文でも、いくつか考えを示しています。
なかなか深い概念なので、
いろいろな地質学的な概念や
時代(冥王代)に関連していきます。
そのため、最新の地質学の進歩も
見ていく必要があり、大仕事になります。
大変ですが、面白い作業となっています。
・ストーブ・
9月中旬から一気に秋めいてきました。
自宅でもすでにストーブを
何度がたくようになりました。
今年の秋は、早く来ているようです。
暑さより寒さのほうが耐えられます。
それでも、秋や春の
程よく過ごしやすい時期のほうが
当然いいですね。
ですから、今が一番いい季節です。